実地指導の傾向について

介護現場の実地指導とは、行政の実地指導監督が介護事業所を直接訪問し、用意された書類やヒアリングによって介護保険法に則った運営ができているかを確認、指導を行うことです。
近年の実施指導では、6年に1度は必ず実施されることが基本ですが、平成24年の介護保険制度の改正では、実地指導の権限が「都道府県」から「市区町村」へ委譲されました。さらに、平成28年からは実地指導において「事業所で虐待が疑われる場合は」事前通知無しでの指導が可能となりました。
そのため、近年では、「高齢者への虐待問題」や「介護保険費用の適正化」において厳しいチェックが入るようになってきています。
それに伴い介護保険事業所では、実地指導において何を準備すればよいのか分からず、慌てて書類の整備に追われるケースも少なくありません。そこで次章より、実施指導・監査がいつ来ても対応できるようになるために、介護現場でできる9つの対策についてご紹介します。
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実施指導の9つの対策について

各市区町村の指導員が行う実施指導の対策として、私たちスタッフは、どのようなことに注意しておけば良いのでしょうか?
実地指導のための9つの対策法をご紹介します。
⑴法令遵守を意識する ⑵職員研修の体制を整える ⑶介護サービスの正しい流れを理解する ⑷記録や帳票を作成・保管する ⑸サービス内容を説明・同意・署名・印を得る ⑹情報収集とアセスメントをする ⑺モニタリング(定期評価)をする ⑻計画書の見直しをする ⑼担当者会議・ケアマネとの連絡内容を書面で残す |
基本的に実施指導では、介護事業所のサービス内容や運営方法について行政の実地指導監督に確認していただき正しい評価をしてもらう、正しい指摘をいただく場です。そのため、指摘をされたからといって必ずしも評判が悪い事業所となるわけではありません。
実地指導で勉強させていただく姿勢を忘れずに、指摘をされたことに真摯に対応し、今後の運営を行うことが安心・安全な介護事業書の運営につながると捉えておきましょう!
それでは次章より、各対策について詳しくご紹介していきます。
⑴ 法令遵守を意識する

まず、実施指導の対策として「法令遵守を意識する」ことについてお話します。
介護保険サービスの提供は、必ず「介護保険法」「障害者総合支援法」「労働基準法」「個人情報保護法」などの法律の下に成り立っています。そのため、まずは法律に則りコンプライアンスを守ることが重要となります。
法令遵守については、東京都福祉保健局から自己点検表があります。この自己点検表では、基本方針・人員基準・設備基準・運営基準・変更の届出等・介護給付費の算定及び取扱い(各種加算関連)について算定要件を満たしているかを確認することができます。
この自己点検表を参考に事業所のコンプランアンスを定期的にチェックすることをお勧めします!
各介護サービス事業所の自己点検チェック表は、以下よりファイルをダウンロードできます。
⑵ 職員研修の体制を整える

次に、実施指導の対策として「職員研修の体制を整える」ことについてお話します。
実地指導では、運営基準や計画書などの書類チェックだけでなく、スタッフ教育の体制(管理・監視・指導)が整っているかを確認されます。
昨今、高齢者に対する虐待が急増し、大きな問題となっています。そのため、高齢者に身体拘束などがないか、尊厳を守るケアを確立しているか、防犯設備やスタッフ教育など事業所が一体となってその課題を解決するための具体策を立てているかを紙面上で残しておくことが重要になります。また、最近ではSNSなどに利用者情報をアップしてしまうなど個人情報保護も問題視されています。そのため業務だけでなく、プライベートも含めてSNSやLINEの活用の仕方について職員指導を行う必要があります。
介護保険サービスでは、施設形態やサービス形態ごとに必須研修項目があらかじめ決まっており、これらの研修を交えて年間スケジュールを計画して、スタッフに研修の機会を作り、研修を行なった記録を残しておく必要があります。
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そのほかの職員研修を行った場合も、その資料を残し、さらに各スタッフの感想や事業所として対策についても書面上に残しておくようにしましょう。
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【関連記事】 介護職員の接遇の心得!おもてなしの心を表現する4つのポイントとは 介護職員の接遇研修に役立つ内容は、こちらの記事でご紹介しています。興味がある方はこちらをご覧ください。 |
⑶ 介護サービスの正しい流れを理解する

「介護サービスの正しい流れを理解する」ことも実施指導の対策として重要です。
実地指導や監査では、通所介護計画書などの書類を参考書類としてそのサービスが計画通りに行われているか、サインや日付の違いはないかなどをチェックされます。そのため、介護サービスの流れを正しく理解して、職員にも徹底してもらうように心がけましょう!
デイサービスであれば基本的には、通所介護計画書に則りサービスを提供します。
1. ケアプラン(居宅サービス計画書)の受け取り 2. サービス担当者会議の実施|事前訪問と契約 3. 利用者さまの情報収集とアセスメント 4. 介護計画書の作成 5. 利用者さまとその家族に介護計画書の説明・同意・署名/印・交付 6. サービスの開始・日々の介護記録の記載 7. モニタリング・定期評価 |
⑷ 記録や帳票を作成・保管する

次に、実施指導の対策として「記録や帳票を作成・保管する」ことについてお話します。
記録や帳票は見逃しがちなことですが、もっとも重要といっても過言ではありません。例えば、ケアマネージャーからのケアプラン(居宅サービス計画書)が遅れており、仮の介護計画書を作成しないといけない場合などは、以下のように連絡したことを内容を記憶として残しておきましょう。
平成29年10月5日(木):○○事業所○○ケアマネージャに電話連絡 担当者 ケアプランとサービス担当者介護の要点がいただけていません。早めに送付していただけますでしょうか? ケアマネージャー 現在、作成中ですのでもうしばらくお待ちください。 担当者 サービス利用が開始されてしまうので、仮の介護計画書を作成いたします。作成した内容をお送りしますのでご確認いただけますでしょうか? ケアマネージャー すいません。確認して再度ご連絡いたします。宜しくお願いします。 担当者 宜しくお願いいたします。 |
実地指導や監査では、「なぜ計画書の作成に遅れが出ているのか」などの理由を聞かれることがあります。どちらに問題があったのか口頭だけでは説明になりません。そのような場合に当時ケアマネージャーに働きかけた、請求した証拠を記録として残しておくとことで、言った・言わないなどの水掛け論にならずに、理由を説明することができます。
⑸ サービス内容を説明・同意・署名・印を得る

続いて、実地指導の対策として「サービス内容を説明・同意・署名を得る」ことについてお話します。
実施指導・監査のポイントとして、説明責任が果たせているのか、同意を得て契約(署名・印)されているかを確認されます。
そのため、利用者様またはその家族に会社概要・サービス内容を説明し、同意を得てから契約を結べているか、書類とスタッフに確認するようにしましょう。スタッフによって説明内容が異ならないように事前に事業所内で説明内容を統一するようにしましょう。
○契約書 ○重要事項説明書 ○事業所概要など |
▼サービス内容をしっかりと説明できるようにするためには、計画書を正しく記載することも重要です。合わせて、通所介護計画書の書き方についてもご覧ください。
【関連記事】 通所介護計画書の書き方について|初めて計画書を作成するあなたへ 計画書を正しく作成するために必要な「情報収集」から「計画書作成」まで5つのステップをご紹介します。 |
⑹ 情報収集とアセスメントをする

続いて、実地指導の対策として「情報収集とアセスメントをする」についてお話します。
実施指導・監査では、サービス利用の目的や目標が異なっている場合に指摘を受けることがあります。特に、ケアマネージャーからいただくケアプラン(居宅サービス計画書)とのズレがないようにすることが大前提となります。
ただし、それだけでは十分ではありません。利用者様・ご家族からの情報収集や居宅訪問での家屋状況など直接お話を伺うことでより具体的なアセスメントをすることができます。
◎ケアプランからの情報収集 利用者様の身体状況、障害高齢者日常生活自立度などの基本情報とサービス利用の目的などを担当ケアマネージャーが立案したケアプラン(居宅サービス計画書)から情報収集を行う。 ◎利用者様・ご家族からの情報収集 利用者様・ご家族にお会いして現在の生活状況や希望・要望、家屋状況などの情報収集をします。また、実際にどの程度動けるのかを確認しておきましょう。 |
▼利用者様の情報収集の1つに居宅訪問があります。居宅訪問での情報収集のポイントについては下記の記事をご覧ください。情報収集に使える「居宅訪問チェックシート」や「興味関心チェックシート」の活用方法もご紹介しています。
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⑺ モニタリング(定期評価)をする

続いて、「モニタリング(定期評価)」がどのように実施指導の対策として重要なのかをご紹介します。
モニタリング(定期評価)とは、一人ひとりの身体状況や希望、生活状況に合わせて計画し、提供したサービスが妥当であったかを定期的・継続的に判定するものです。
この定期評価が行われていないと、時間の経過とともに変化する身体状況や環境、ご利用者の希望・要望に応えるサービスが提供できていないことになります。そのため、実施指導・監査の対策の1つとして定期的にモニタリング(定期評価)を行うようにしましょう。
1. 計画書通りのサービスが提供されているか? 2. 前回、立案したサービス目標の達成度合いはどれくらいか? 3. 今回の身体機能・生活能力はどのくらいあるか? 4.利用者様とご家族の満足度はどれくらいか? 5.提供したサービスは適切であったか? 6.利用者様とご家族の新しい希望・要望はないか? など |
⑻ 計画書の見直しをする

モニタリング(定期評価)の後は、実地指導の対策として「計画書の見直し」をします。
具体的には、モニタリングでサービスの実施状況や目標の達成度の結果から「新しいサービス目標の設定」が必要な場合や「新しいサービスの提供」が必要になった場合に計画書の見直しを行います。
この場合は、介護保険サービスを調整しているケアマネージャーに相談してケアプラン(居宅サービス計画書)を変更を行ってもらう必要があります。ケアマネージャーの了承が得られた上で、計画書の目標設定、サービス内容の変更を行いましょう。
1. 介護保険の更新・区分変更の場合 2. サービス提供日時の変更の場合 3. サービス提供内容の変更の場合 4. サービス目標内容・機関の変更の場合 など |
⑼ 連絡内容を書面で残す

最後に、実地指導の対策として見逃しがちな「連絡内容を書面で残す」ことについてお話します。
基本的に事業所で提供する介護サービスは、サービス担当者介護とケアマネージャーが作成するケアプラン(居宅サービス計画書)があって初めてそのサービスが提供できます。
実施指導・監査では、サービス担当者介護とケアプラン(居宅サービス計画書)の方針に沿った事業所の計画書の作成ができているかを確認されます。そのため、サービス担当者介護の議事録はもちろんのことケアマネージャーとの電話連絡の内容、事業所内での担当者介護の内容も書面で残し、保管しておくようにすると良いでしょう。
また、この書面はあくまでも書類として保管しておきたいので鉛筆や修正テープなどは活用せず、ボールペンでの記載や二重線に訂正印を押すようにしておきましょう。
まとめ

今回は、皆様の介護事業所で日頃から取り組める「実地指導の傾向と対策」についてまとめてご紹介しました。
基本的に実施指導では、法令遵守に則り指導が入ります。法令については介護報酬改定後に各介護サービスの改変がされるため、行政や自治体の動きにも注目しながら介護事業所の管理・運営を正しく行なっていく必要があります。
特に、書類の形式や内容は各市区町村によっても指導内容が異なるため、直接確認することもオススメです。