個別機能訓練加算とは

個別機能訓練加算とは、デイサービスやショートステイ、特別養護老人ホーム(特養、介護老人福祉施設)、特定施設入居者生活介護において定められた算定要件を満たし、高齢者に合わせた機能訓練(リハビリ)を行った場合に算定される介護サービスの加算のことです。
個別機能訓練加算の目的は、高齢者が住み慣れた地域で、いつまでも元気で生き生きとした在宅生活が送れるように、身体機能や生活能力の維持または向上を目指すことにあります。
ここから、デイサービス、ショートステイ、特養護老人ホーム、特定施設入居者生活介護それぞれの個別機能訓練加算の要件についてご紹介します。
デイサービスにおける個別機能訓練加算について
デイサービスの個別機能訓練加算には、個別機能訓練加算Iと個別機能訓練加算Ⅱの2種類があります。特に行政の実地指導時にチェックされるポイントでもあるので個別機能訓練加算ⅠとⅡの算定要件などの違いはしっかりと理解しておきましょう。
■個別機能訓練加算の申請に必要書類
・各市区町村指定の加算様式書類
・従業者の勤務体制及び勤務形態一覧表
・機能訓練指導員の資格証
■居宅訪問
平成27年度より、利用者様の居宅訪問をした上で、自宅での生活状況や課題(基本動作、ADL、IADL等の状況)、生活環境を確認することが必要となりました。
■人員配置
個別機能訓練加算Ⅰおよび個別機能訓練加算Ⅱのいずれも機能訓練指導員の配置が必須となります。
■個別機能訓練計画書の作成
機能訓練指導員(以下、理学療法士等)が共同して、利用者様ごとに「目標」「実施時間」「実施方法」などを内容とする個別機能訓練計画書を作成し、これに基づいて行った個別機能訓練の効果、実施時間、実施方法等について評価等を行うこと。「通所介護計画書」において個別機能訓練計画書に相当する内容を記載する場合は、その記載をもって個別機能訓練計画書に代えることができます。
■再評価・見直し
個別機能訓練を行う場合は、開始時及びその後3ヶ月に1回以上、利用者様または、ご家族に対して個別機能訓練計画の内容を説明し、記録すること。また、評価内容や目標の達成度について、担当のケアマネ等に報告・相談し、必要に応じて目標や訓練内容の見直しを行うこと。
■算定要件
個別機能訓練加算Ⅰを算定している者であっても、別途、個別機能訓練加算Ⅱに係る訓練を実施した場合は、同一日であっても個別機能訓練加算Ⅱを算定できます。個別機能訓練加算Ⅰ・Ⅱでは理学療法士等の配置基準が「常勤専従」と「専従」で異なります。違いについては次章で詳しくご紹介します。
■記録の保管
個別機能訓練に関する実施記録(実施時間、訓練内容、担当者等)は、ご利用者様ごとに保管し、常に職員が閲覧できるようにすること。
【参考資料】 1.厚生労働省ホームページ,社保審-介護給付費分科会 第141回(H29.6.21) 参考資料3,通所介護及び療養通所介護 (参考資料) 2.厚生労働省老健局振興課長, 通所介護及び短期入所生活介護における個別機能訓練加算に関する事務処理手順例及び様式例の提示について |
ショートステイにおける個別機能訓練加算について
短期入所介護(ショートステイ)の個別機能訓練加算は、専従の機能訓練指導員を配置した上で、機能訓練指導員等が利用者の居宅を訪問し、個別機能訓練計画を作成し、機能訓練指導員が機能訓練を適切に提供することが算定要件です。
ショートステイの個別機能訓練加算は、1日あたり56単位の単位数を加算できます。その後も算定する場合には、3ヶ月ごとに1回以上は利用者の居宅を訪問し、状況把握や説明、同意などを行うことが算定要件となっています。
ショートステイには個別機能訓練加算と似た、機能訓練指導員配置加算という加算があり、常勤専従の機能訓練指導員を配置した場合の評価として、1日あたり12単位の単位数を加算できることとなっています。(機能訓練指導員配置加算は、常勤専従を評価するものなので、併設施設との兼務や非常勤の配置では算定できません)
ショートステイの個別機能訓練加算 | |
単位 | 56単位/日 当該基準に従い1日につき所定単位数に加算することができます。 |
算定要件 | 短期入所生活介護の個別機能訓練加算は、通所介護における個別機能訓練加算IIと同趣旨なので、 当該加算と同様の対応を行うこと。 |
人員配置 |
専ら機能訓練指導員の職務に従事する「常勤」の理学療法士等を1名以上配置 |
実施者 |
機能訓練指導員が直接指導すること |
目的 | 身体機能を活用した食事、排泄、更衣などの「日常生活活動」や調理、洗濯、掃除など「家事動作」の獲得を目指したり、「趣味活動」、町内会などの「社会参加」を目指すもの |
訓練内容 |
目標にした生活課題を達成するために必要な具体的な動作練習やそれを模倣した反復訓練を提供する |
実施範囲 |
必ずしも個別で体操する必要はなく、類似の生活目標をもつご利用者であれば「5名程度以下の小集団(個別対応含む)」に対して訓練を提供します。概ね、週1回以上実施することを目安とする |
実施環境 | 浴槽、脱衣所、階段、台所など日常生活に必要な設備を整え実用的なプログラムも提供すること |
特別養護老人ホーム(特養)における個別機能訓練加算について
特別養護老人ホーム(介護老人福祉施設、特養)は、社会福祉法人や自治体や社会福祉法人などが運営する公的側面がある要介護4と要介護5の方が利用できる介護施設です。
特養における個別機能訓練加算は、理学療法士など特養で働く機能訓練指導員の職務に従事する常勤が1名以上いて、共同して個別機能訓練計画を作成し、計画的に機能訓練を実施することが算定要件となっています。
特養の個別機能訓練加算は、1日あたり12単位の単位数を加算できます。
単位 | 12単位/日 当該基準に従い1日につき所定単位数に加算することができます。 |
算定率 | 厚生労働省(平成26年4月審査分)によると、介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)および地域密着型介護老人福祉施設における個別機能訓練加算の算定率(推計)は「49.38%」と報告されており、最近では特養でも個別の機能訓練を提供していることが分かります。 |
特徴 | 通所介護(デイサービス)に比べ、特養の入居者様は比較的介護度の高い方(要介護3〜5)が対象となります。そのため、積極的に運動を提供するというよりも着替えやトイレなどの個々の生活に即した訓練を提供していることがその特徴です。 |
特定施設入居者生活介護における個別機能訓練加算について
特定施設入居者生活介護(特定施設)とは、株式会社などの民間企業が運営する有料老人ホームであり、職員の数や広さ、運営体制などの条件を満たし、特定施設入居者生活介護の指定を保険者から受けた施設です。
特定施設の個別機能訓練加算は、理学療法士など機能訓練指導員の職務に従事する常勤が1名以上いて、共同して個別機能訓練計画を作成し、計画的に機能訓練を実施した場合に、1日あたり12単位の単位数を加算できます。
個別機能訓練加算Ⅰ・Ⅱの単位数/算定要件について
ここからは個別機能訓練加算Ⅰと個別機能訓練加算Ⅱの単位数や算定要件などの違いについて詳しくご紹介していきます。
個別機能訓練加算Ⅰについて

■個別機能訓練加算Ⅰとは
個別機能訓練加算Ⅰとは、ご利用者様の「身体機能を維持すること」を目的として取り組む個別の運動プログラムです。加算の具体的な算定要件をご紹介します。
■個別機能訓練加算Ⅰの単位数
46単位/日
当該基準に従い1日につき所定単位数に加算することができます。
■個別機能訓練加算Ⅰの算定要件
個別機能訓練加算Ⅰを算定するためには、次の基準にすべてに適合することが条件です。
(1)「常勤専従」の理学療法士等を1名以上配置していること
(2)利用者の自立の支援、日常生活の充実を目的とした機能訓練の項目を「複数」計画し、利用者の心身状況に応じた訓練を実施していること
(3)機能訓練指導員、看護職員、介護職員、生活相談員、その他の職種の者が共同し、機能訓練計画書を作成・実施していること
(4)3ヶ月に1回以上、利用者やその家族の居宅を訪問した上で、その内容を説明し、見直しを行っていること
■個別機能訓練加算Ⅰのプログラム
個別機能訓練加算Ⅰのプログラム(訓練内容)は、「身体機能の向上」を目的とした運動プログラムをご利用者様が主体的に選択できるよう、複数提供することが重要です。個別機能訓練加算Ⅰのプログラム内容には「身体機能に直接的に働きかける運動」または、「疾患・疾病の維持と予防を行う運動」があります。
個別機能訓練加算Ⅰのプログラム|身体機能の場合
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個別機能訓練加算Ⅰのプログラム|疾病・疾患予防の場合
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■個別機能訓練加算Ⅰの訓練内容の注意点
個別機能訓練加算Ⅰでは、利用者が主体的に選択でき、生活意欲を増進する「複数のグループ活動」を機能訓練指導員などが実施する必要があります。また、介護職員や生活相談員その他の職種の者が協働して利用者ごとに個別機能訓練計画を作成した上で機能訓練を実施していれば、機能訓練指導員による直接的な訓練の提供までは要件とされていません。つまりは、個別機能訓練加算Ⅰの機能訓練の実施者は「介護職員」でも可能となっています。
■個別機能訓練加算Ⅰのポイント
自主トレーニングやグループ活動においては、「やらされている」「してもらっている」ではなく、その活動の目的・効果などを利用者に理解してもらい、「自分で選択して行っている」ということが、その活動の継続を促し、効果を増大させる要因となります。
個別機能訓練加算Ⅱについて

■個別機能訓練加算Ⅱとは
個別機能訓練加算Ⅱとは、利用者様に食事、排泄、入浴などの日常生活活動(ADL)や調理、洗濯、掃除などの家事動作(IADL)への機能訓練や、趣味やコミュニティなどの社会参加といった働きかけをすることで高齢者の充実した生活を支援します。以下、加算の算定要件をご紹介します。
■個別機能訓練加算Ⅱの単位数
56単位/日
当該基準に従い1日につき所定単位数に加算することができます。
■個別機能訓練加算Ⅱの算定要件
個別機能訓練加算Ⅱを算定するためには、次の基準にすべてに適合することが条件です。
(1)「専従」の理学療法士等を「1名」以上配置していること
※但し、非常勤の機能訓練指導員の配置でも算定可。雇用契約等をクリアすれば同法人内で出向や派遣での対応も可。なお看護職員が当該加算に係る機能訓練指導員の職務に従事する場合は、当該職務の時間帯は看護職員としての人員基準の算定に含めないこと。
(2)利用者の生活機能の維持・向上し、「利用者ごと」の心身の状況を重視した個別機能訓練計画を作成していること
※残存する身体機能を活用して生活機能の維持・向上を図り、ご利用者様が住み慣れた環境で可能な限り自立して暮らしが続けれることを目的とする。
(3)個別機能訓練計画に基づき、理学療法士等が利用者の心身の状況に応じた機能訓練を実施していること
(4)3ヶ月に1回以上、利用者やその家族の居宅を訪問した上で、その内容を説明し、見直しを行っていること
※個別機能訓練加算Ⅰの⑷に掲げる基準と同様
■個別機能訓練加算Ⅱのプログラム
個別機能訓練加算Ⅱのプログラム(訓練内容)は、心身機能への働きかけだけでなく具体的なADL(食事、排泄、入浴等)やIADL(調理、洗濯、掃除等)などの活動への働きかけや、趣味やコミュニティなどの社会参加の実現といった参加への促進を目標とした生活機能訓練を提供することが重要です。実際のプログラムには以下のような機能訓練があります。
個別機能訓練Ⅱのプログラム|基本動作の場合
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個別機能訓練Ⅱのプログラム|日常生活動作の場合
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個別機能訓練Ⅱのプログラム|家事動作の場合
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個別機能訓練Ⅱのプログラム|趣味・余暇活動の場合
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個別機能訓練Ⅱのプログラム|社会的交流の場合
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このように個別機能訓練加算Ⅱでは、日常生活の目標を達成するために必要な段階的なプログラムを立案する必要があります。 そんな悩みを解消するのが「リハプラン」です。 リハプランは、居宅訪問などの評価項目をパソコンもしくはタブレットから選択するだけで利用者に合わせた目標・プログラムが自動提案。プログラム実施後の変化のコメントは自動生成されるので文章入力の手間が大幅に削減されます。さらに、ボタン一つでグラフ化された報告書も作成できます。 |
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■個別機能訓練加算Ⅱの訓練内容の注意点
個別機能訓練加算Ⅱでは、生活機能の維持・向上に関する目標を具体的に設定し、「5名程度以下の小集団(個別対応含む)」に対して機能訓練指導員が「直接指導」しなければなりません。また、必要に応じて事業所内外の設備を用いた実践的かつ反復的な訓練を概ね、週1回以上を目安に実施します。
■個別機能訓練加算Ⅱのポイント
必ずしも、マンツーマン指導が対象ではありません。グループ活動やポイントを絞った関わりなどもうまく組み合わせ、他者とのコミュニケーションを促通し、利用者様が個別の目標に向かって達成しやすい環境を工夫し、実施していくことが重要です。
デイサービスの個別機能訓練加算の算定状況について、事業所規模別に見てみると、小規模・通常規模デイサービスにおいては、「個別機能訓練加算Ⅱのみ」加算を算定していることが多いことが分かります。
これは、小規模や通常規模デイサービスに在籍している個別機能訓練指導員が、1名または非常勤として勤務しており、人員配置が整っていないため「個別機能訓練加算Ⅰ」が算定できないのではないかと考えられます。実際、通所介護事業所の8割が、リハビリスタッフが在籍していないという報告もあります。
全国のデイサービスの個別機能訓練加算の課題について
個別機能訓練加算の課題について、厚生労働省のデータを見てみると、個別機能訓練計画書の作成者は、全体の職種の中でも「看護師」が最も多いことが分かります。
これは通所介護(デイサービス)では、看護師の役割が多様化し、多忙化していることが考えられます。主に機能訓練指導員として働く看護職員は、ご利用者様のケアや健康状態を見極めるバイタルチェック、疾患別のリスク管理を行うことができるのが特徴です。
看護学生時代には、運動などの知識を学ぶ機会はほどんどないため、運動プログラムは介護現場で実践的に学ばれている(OJT)方がほどんどです。しかしながら、人材が不足している通所介護事業所(デイサービス)では、看護師兼機能訓練指導員として兼務するケースも多くあるため、業務負荷を考慮した取り組みが課題となります。
(引用文献)
さらに、個別機能訓練加算Ⅰ・Ⅱのプログラムの提供内容(H26)を見ていると、「関節可動域訓練」や「筋力トレーニング」、「歩行練習」などの身体機能訓練が個別機能訓練加算Ⅱのプログラムでも多いことが分かります。
本来、個別機能訓練加算Ⅱの目的は、残存する身体機能を活用して生活機能の維持・向上を図り、ご自宅で可能な限り自立して暮らし続けることを支援することです。しかしながら、個別機能訓練加算Ⅱのプログラム内容が明らかに身体機能訓練に偏っています。そこで以下の3つを課題とし、検討していきます。
個別機能訓練加算のプログラム立案の3つの課題
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個別機能訓練計画書の基本情報の書き方について
個別機能訓練計画書における基本情報とは、ケアマネから頂くケアプランを参考に記載していきます。事前に居宅訪問やご本人・ご家族から情報収集したご希望・ご要望、生活課題も記載していきます。
作成日 | 初回作成の場合は、作成日には初回ご利用日以前の日付を記載します。2回目以降の作成の場合は、作成日に前回作成日からおおむね3ヶ月くらいまでの日付を記載しましょう。 |
作成者 | 主に担当の機能訓練指導員の名前を記載します。 |
介護認定 | 介護認定を受けている要介護度を記載します。 認定結果が出ていない場合は「申請中」と記載しましょう。 |
スタッフ | 管理者・看護・介護・機能訓練・相談員 共同で計画書作成に係ったそれぞれの職種の名前を記載します。 |
本人の希望 | 事前の居宅訪問での情報収集の内容を記載します。 |
家族の希望 | 事前の居宅訪問での情報収集の内容を記載します。 |
障害高齢者の日常生活自立度 | 判定基準に則り、自立度を記載します。 |
認知症高齢者の日常生活自立度 | 判定基準に則り、自立度を記載します。 |
病名、合併症(心疾患、呼吸器疾患等) | ケアマネージャーのケアプランやサマリー、ご本人やご家族などから情報収集した病名や合併症などの医学的情報を記載します。 |
運動時のリスク(血圧、不整脈、呼吸等) | ケアマネージャーにご相談の上、主治医に具体的な血圧の制限などの指示をいただきましょう。 |
生活課題 | ケアプラン、ご本人やご家族の情報収集で知り得た「生活の課題」や居宅訪問の上で実際にご本人に動作確認を行った食事やトイレ、入浴など「日常生活を送る上で問題となる動作」を記載します。 |
住宅環境 | 居宅訪問での家屋状況から予測される問題点を記載します。 また、居宅訪問チェックシートの内容から特記事項などを掲載しておくと良いと思います。 |
個別機能訓練計画書の目標設定の書き方について
個別機能訓練加算の目標設定を記載する場合、ケアマネジャーよりいただくケアプランに則り、「長期目標・短期目標」を記載します。
個別機能訓練加算には、「個別機能訓練加算I」と「個別機能訓練加算II」の2種類がありますが、計画書を作成する場合は、それぞれの「目標設定の違い」を理解しておく必要性があります。
そこで、まずは個別機能訓練加算Ⅰの目標設定について考えていきましょう。

利用者の自立の支援と日常生活の充実に資するよう複数メニューから選択できるプログラムの実施が求められ、座る・立つ・歩く等ができるようになるといった身体機能の向上を目指すことを中心に行われるものである
つまり、個別機能訓練加算Ⅰの目標設定は、身体機能の向上を目的とした運動プログラムを複数提供することが必要です。このことから、個別機能訓練加算Ⅰの長期目標を立案する場合は、身体機能に関しての目標を設定します。
次いで、短期目標を立案する場合は、長期目標で立案した内容を達成するために必要な具体的な目標を設定します。より具体的な短期目標を立案するためには、居宅訪問で情報収集した内容を記載していきます。
個別機能訓練加算Ⅰの目標の記載例 【長期目標】 ・運動習慣を身につける ・杖歩行の体力をつける ・移動範囲の拡大 ・転倒予防を図る ・生活リズムをつける など 【短期目標】 ・杖で安定した歩行能力を身につける ・転ばないように基礎体力をつける ・安全に車椅子からベッドへの移乗できる ・床から立ちあがりができる ・車いすで自走できる |
■個別機能訓練加算Ⅱの目標設定について
次に、個別機能訓練加算Ⅱの目標設定について考えていきます。
厚生労働省によると、個別機能訓練加算Ⅱの目的は、以下のように定義されています。
利用者が居宅や住み慣れた地域において可能な限り自立して暮らし続けることができるよう、身体機能の向上を目的として実施するのではなく、「①体の働きや精神の働きである心身機能」、「②ADL・家事・職業能力や屋外歩行といった生活行為全般である活動」、「 ③家庭や社会生活で役割を果たすことである参加」といった生活機能の維持・向上を図るために、機能訓練指導員が訓練を利用者に対して直接実施するものである。
つまり、個別機能訓練加算Ⅱの目標設定は、具体的な日常生活動作や家事動作、趣味活動、コミュニティなどの社会参加の獲得を目的とした運動プログラムまたは実践的なプログラムを提供することになります。このことから、個別機能訓練加算Ⅱの長期目標を立案する場合は、ADLやIADL、趣味活動、社会参加に関しての目標を設定します。
短期目標を立案する場合は、長期目標を達成するために必要な段階的な目標を立案します。居宅訪問で情報収集した具体的な高さや課題が記載されていると良いでしょう。
個別機能訓練加算Ⅱの目標の記載例 【長期目標】 ・近隣のスーパーに買い物に行ける 【短期目標】 ・上がり框(45cm)の昇り降りができる ・靴の着脱ができるようになる ・約1.5kmの屋外歩行ができるようになる ・荷物を持って歩けるようになる |
個別機能訓練計画書のプログラム立案について

個別機能訓練加算の計画書作成で注意していただいたいのが「プログラム」です。
特に個別機能訓練加算Ⅱの計画書作成においては、生活機能の維持・向上を目標にプログラムを立案していきます。生活機能の維持・向上を目標にする場合、ADLやIADLにおける「複数の工程」を理解している必要があります。
例えば、個別機能訓練加算Ⅱにおいて「排泄動作の自立」を目標に立てた場合、大きく9つ項目を評価し、問題のある項目を短期目標として立案し、その短期目標を達成するための適切なプログラムを立案していかなければなりません。
排泄動作の自立に必要な9つの要素
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このように日常生活の目標を達成するために必要な「複数の工程」を理解した上で「プログラムの立案」をすることこそが個別機能訓練加算Ⅱの計画書作成において最も重要なポイントとなります。
個別機能訓練計画書に重要なチェックシートについて
興味・関心チェックシートとは

個別機能訓練計画書を作成する場合に、厚生労働省より利用者様の日常生活の状況や趣味活動、社会参加への興味・関心を把握することが推奨されています。この利用者様のニーズの把握の際にご活用いただきたいのが「興味・関心チェックシート」です。
興味・関心チェックシートとは、ご利用者様の日常生活や趣味、社会参加を「している」「してみたい」「興味がある」の3つで評価していきます。
ご高齢者は身体機能の低下や障害により生活範囲が徐々に狭小化していくため生活意欲も下がってしまいます。そのためどんなことに興味がありますか?と聞かれても具体的な目標が出てきません。その際に、興味・関心チャックシートを活用することで、ご利用者様の潜在的に持つ興味や関心を引き出すことができます。
趣味活動や社会参加への目標は、今までしていた趣味活動や単に「家の外にでる」と行った目標だけでなく、今ある能力でも取り組める「友人を自宅に招く」「インターネットで孫と繋がる」など広い視野でご提案していくこともポイントです。
居宅訪問チェックシートとは

個別機能訓練計画書を作成する際は、ご本人・ご家族・ケアマネ・医師などから情報収集、日常生活の状況(ADL・IADL)を包括的に評価・把握します。また、これは平成27年度の個別機能訓練加算の算定要件の改定にて、個別機能訓練計画書の作成は「居宅訪問」が必須となりました。居宅訪問時の参考資料として厚生労働省より「居宅訪問チェックシート」が推奨されています。
居宅訪問チェックシートでは、食事・排泄などの「ADL」、調理・洗濯などの「IADL」、立ち上がりなどの「基本動作」を居宅訪問の上で確認することを示しています。
重要なポイントは「生活状況の課題」「環境の問題」を把握することです。通所介護事業所の中では、実際にご自宅で生活するご利用者様の生活の課題は見えません。そこで、居宅訪問の上で生活状況や環境を把握して個別機能訓練加算としてより「実践的なプログラム」に反映することを目的としています。より実践的なプログラム立案を行う場合は、問題となる自宅環境の「高さを計測」「写真を撮影」しておくと、自宅で必要な段差の調整、調理道具の準備などを備えることができるようになります。
なお、個別機能訓練計画書作成に関わる職員であれば機能訓練指導員以外が居宅訪問が可能であり、生活状況を確認する者は毎回必ずしも同一人物で行う必要はありません。
個別機能訓練加算のQ&Aについて

これまで、個別機能訓練加算の算定要件から個別機能訓練計画書の書き方まで解説してきました。しかしながら、実際にこれから個別機能訓練加算を算定していく上では様々な疑問が浮かぶのではないでしょうか。
そこで、個別機能訓練加算の算定要件について「厚生労働省のQ&A」をまとめてご紹介しておきます。
質問 | 個別機能訓練加算Ⅱの訓練時間について「訓練を行うための標準的な時間」とされているが、訓練時間の目安はあるのか。 |
回答 | 1回あたりの訓練時間は、利用者の心身の状況や残存する生活機能を踏まえて設定された個別機能訓練計画の目標等を勘案し、必要な時間数を確保するものである。例えば「自宅でご飯を食べたい」という目標を設定した場合の訓練内容は、配膳等の準備、箸(スプーン、フォーク)使い、下膳等の後始末等の食事に関する一連の行為の全部又は一部を実践的かつ反復的に行う訓練が想定される。 これらの訓練内容を踏まえて利用日当日の訓練時間を適正に設定するものであり、訓練の目的・趣旨を損なうような著しく短時間の訓練は好ましくない。 なお、訓練時間については、利用者の状態の変化や目標の達成度等を踏まえ、必要に応じて適宜見直し・変更されるべきものである。 |
(引用)(1)厚生労働省「平成24年度介護報酬改定に関するQ&A(Vol.1)(平成24年3月16日)」
質問 | 個別機能訓練加算Ⅰの選択的訓練内容の一部と、個別機能訓練加算 (Ⅱ)の訓練内容がほぼ同一の内容である場合、1 回の訓練で同一の利用者が両方の加算を算定することができるのか。 |
回答 | それぞれの計画に基づき、それぞれの訓練を実施する必要があるものであり、1 回の訓練で両加算を算定することはできない。 |
(引用)(1)同上
質問 | 介護予防通所介護と一体的に運営される通所介護において、個別機能訓練加算Ⅰを算定するために配置された機能訓練指導員が、介護予防通所介護の運動器機能向上加算を算定するために配置された機能訓練指導員を兼務できるのか。 |
回答 | 通所介護の個別機能訓練の提供及び介護予防通所介護の運動器機能向上サービスの提供、それぞれに支障のない範囲で可能である。 |
(引用)(1)同上
質問 | 個別機能訓練加算Ⅰの要件である複数の種類の機能訓練の項目について、準備された項目が類似している場合、複数の種類の項目と認められるのか。 |
回答 | 類似の機能訓練項目であっても、利用者によって、当該項目を実施することで達成すべき目的や位置付けが異なる場合もあり、また、当該事業所 における利用者の状態により準備できる項目が一定程度制限されることもあり得る。 よって、利用者の主体的選択によって利用者の意欲が増進され、機能訓練の効果を増大させることが見込まれる限り、準備されている機能訓練の項目が類似していることをもって要件を満たさないものとはならない。 こうした場合、当該通所介護事業所の機能訓練に対する取組み及びサービス提供の実態等を総合的に勘案して判断されるものである。 |
(引用)(1)同上
質問 | 平成 24 年度介護報酬改定において新設された個別機能訓練加算Ⅱは例えばどのような場合に算定するのか。 |
回答 | 新設された個別機能訓練加算Ⅱは、利用者の自立支援を促進するという観点から、利用者個別の心身の状況を重視した機能訓練(生活機能の向上 を目的とした訓練)の実施を評価するものである。例えば「1人で入浴する」という目標を設定する場合、利用者に対して適切なアセスメントを行いADL(IADL)の状況を把握の上、最終目標を立て、また、最終目標を達成するためのわかりやすい段階的な目標を設定することが望ましい(例:1月目は浴室への移動及び脱衣、2月目は温度調整及び浴室内への移動、3月目は洗身・洗髪)。 訓練内容については、 浴室への安全な移動、着脱衣、湯はり(温度調節)、浴槽への安全な移動、 洗体・洗髪・すすぎ等が想定され、その方法としては利用者個々の状況に応じて事業所内の浴室設備を用いるなど実践的な訓練を反復的に行うこととなる。 また、実践的な訓練と併せて、上記入浴動作を実施するために必要な訓練(柔軟体操、立位・座位訓練、歩行訓練等)を、5人程度の小集 団で実施することは差し支えない。 |
(引用)(2)厚生労働省「平成24年度介護報酬改定に関するQ&A(Vol.1)(平成24年3月16日)」

個別機能訓練加算の算定要件から居宅訪問、個別機能訓練計画書の書き方、実践プログラムまでまとめてご紹介しました。昨今、介護現場など在宅においても機能訓練(リハビリ)を求める高齢者のニーズからリハビリ特化型デイサービスなどの事業所が増えてきています。
個別機能訓練加算は、ご高齢者の自立支援を行うための機能訓練を提供した通所介護(デイサービス)に対して与えられる加算です。
通所介護の基本報酬が減額がされる一方で、平成27年度の介護報酬改定では、個別機能訓練加算は増額をしています。今後、平成30年度の介護報酬改定でも高齢者の自立支援につながる機能訓練を提供している事業所を積極的に評価していくインセンティブ制度(ADL維持等加算)を設けています。
今回は、安定した通所介護事業所の経営を可能にするために必要な条件となりつつある個別機能訓練加算について算定要件から計画書作成について総括してまとめてご紹介しました。これから初めて個別機能訓練加算を算定するデイサービス様の参考にしていただければ幸いです。