高齢者の転倒予防対策|転倒の原因・繰り返す転倒を予防する方法を解説

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更新日:2024/04/05

高齢者の転倒は大けがや介護につながる危険性があるため、自宅でも施設でも転倒予防対策を施しておく必要があります。この記事では転倒の危険性や転びやすくなる原因、具体的な転倒予防対策まで詳しくご紹介しています。

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高齢者が転倒した場合の危険性とは

高齢者の転倒は、骨折や頭部外傷などの深刻な怪我を引き起こす可能性があり、長期的な介護が必要になることもあります。

令和3年版高齢社会白書によると、高齢者が要介護状態になる原因の13%が骨折や転倒に起因しているとされており、「転倒」は高齢者のその後の生活に大きな影響を及ぼすこともあります。

また、高齢者自身が感じる転倒への不安や恐怖は生活の質を大きく低下させ、孤立感を増大させることもあります。

心理的な面への影響として、転倒を経験した高齢者が恐怖心や不安を覚えてしまい、外出を避けるようになることもあり得るでしょう。転倒を経験したことによる自信の喪失は、高齢者の心身に深刻な影響を与える可能性があるのです。

身体面への影響として、転倒による骨折で入院が必要になった結果、全身的な筋力低下が生じて介護が必要になる可能性が考えられます。

最悪のケースでは、転倒による怪我が原因で寝たきりの状態になり、日常生活の全てを他人の支援に頼らざるを得なくなる場合もあるでしょう。

要介護状態になってしまうと、高齢者本人だけでなく、その家族や介護者にも大きな負担をかけることになります。

以上のことから、高齢者の転倒予防は単に身体的な怪我を防ぐだけでなく、精神的な健康と自立した生活を維持するためにも非常に重要なテーマです。

転倒予防策を学び、実践することで、より安全で充実した生活を送れるようにしましょう。

参考: 令和3年版高齢社会白書(全体版)

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高齢者が転倒する主な原因4つ

高齢者の安全と健康を守るためには、転倒の原因を理解することが大切です。高齢者が転倒する原因は、主に以下の4つが挙げられます。

運動不足による筋力低下

高齢者が転倒する原因の1つとして、運動不足が挙げられます。加齢に伴い、自然と筋肉量は減少しますが、運動不足によって筋肉量の減少はさらに加速してしまいます。

筋肉量が減少して筋力が低下すると、以下のような基本的な生活動作が難しくなる可能性があるでしょう。

  • 立ち上がる
  • 歩行する
  • 階段を登る

このような生活動作が難しくなってしまった場合、普段の生活を送る中でふらつきがみられやすくなり、転倒リスクが高まります。

視力・認知機能の低下

視力低下によって障害物を見落としたり、段差を認識できなかったりすると、転倒を引き起こしやすくなります。

また、認知機能の低下は環境への適応能力や注意力の低下を招き、転倒の危険がある状況への対処が困難になることがあります。

たとえば、こたつの掛け布団に注意が向かず、足を引っかけて転んでしまうなどが考えられるでしょう。

薬・疾患による影響

一部の薬剤は、副作用としてめまいやふらつきを引き起こすことがあり、転倒につながる可能性があります。

また、疾患自体がバランス感覚を損ねたり、身体機能を低下させたりすることもあります。たとえば、関節系の疾患による痛みがあれば、直接的に歩行や立位の安定性に影響を及ぼすでしょう。

薬剤や疾患が転倒リスクを高めている場合は、医師等の専門職と相談して適切な管理計画を立てることが大切になります。

身体レベルに合わない生活環境

高齢者の住環境は、時と共に身体的な能力に合わなくなることがあります。たとえば、以下のような要素が挙げられます。

  • 滑りやすい床材
  • 暗い照明
  • 手すりのない階段

合わない生活環境は、転倒のリスクを高める要因となるでしょう。

生活環境を定期的に見直し、必要に応じて改善することで、高齢者が安全に過ごせる空間を作ることができます。

具体的な転倒予防対策

転倒予防対策は、環境整備と利用者の心身機能向上の両面から取り組むことが大切です。高齢者の転倒事故で最も多い場所は自宅の「居室」が45%で1位、高齢者施設(老人施設)での転倒も「居室」が43.2%で1位です。自宅にせよ施設にせよ、居室は滞在時間が長いので、割合はどちらも首位ということになります。

そのため、自宅と施設内、どちらにおいても転倒予防対策が必要になります。以下、生活環境の整備と身体機能向上の観点から、具体的な対策を解説します。

参考:福祉施設における事故対応のハンドブック

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生活環境の整備による転倒予防

高齢者が転倒しやすい場所ごとに対策することが大切です。施設内の転倒事故は、特定の場所で発生する傾向にあります。

転倒が起きやすい場所を特定し、適切な予防策を実施することで、転倒事故のリスクを減少させることができます。

浴室・脱衣所

浴室や脱衣所は、水や湿気によって床が滑りやすく、転倒しやすい環境です。

また、浴室内では以下のようなさまざまな動作が転倒リスクを高める要因になります。

  • 段差を越える
  • 浴槽をまたぐ
  • 浴槽内で座位から立ち上がる

このような浴室や脱衣所での不安定な動作が転倒リスクを高めます。

主な対策としては、滑り止めマットや手すりの設置が有効でしょう。ただし、難しい動作に合わせて必要な物品は異なるため、それぞれに合った物品を活用するようにしましょう。

たとえば、浴槽をまたぐ動作が難しい場合、手すりよりも「回転バスボード」という福祉用具を使用した方が良いケースも考えられます。

本人の状態に合わせて転倒しにくい環境を作ることで、安全を確保できます。

中庭・駐車スペース

中庭や駐車スペースでは、不均一な地面や段差が転倒の主な原因になります。特に、足が引っ掛かりやすい地面の凹凸が危険になりやすく、注意が必要です。

たとえば以下のような環境が転倒要因になるでしょう。

  • 芝生
  • 凹凸のある地面
  • 車止め

対策には、なだらかな地面の確保、足元の見やすい環境設定などが推奨されます。

具体的には、以下のような対策が考えられます。

  • 人工芝を固定ピンを使って固定する
  • 地面に土を入れるなどしてなだらかにする
  • 車止めに反射板を付ける

このような対策を図ることで、転倒リスクを低減できます。

エントランス

エントランスは、湿気や雨水で床が滑りやすくなることに加えて、上り框の段差などが影響して転倒しやすい場所になります。

また、異なる床材の接合部も転倒を引き起こす原因であり、注意する必要があるでしょう。

滑り止めマットや、手すりを設置することで、これらのリスクを軽減できます。

たとえば、以下のような転倒予防対策が考えられるでしょう。

  • 床材の異なる部分を滑り止めマットで覆う
  • 上り框のある場所に手すりを設置する
  • 段差の縁に反射板を付ける

階段

階段も転倒事故が起こりやすい場所の1つです。転倒しやすい原因として、以下のような環境が考えられます。

  • 足元が暗い
  • 段差が高すぎる
  • 踏み面(足を乗せる面)が狭い

暗いなどの視覚的な影響については、ライトを設置するなどで改善しやすいでしょう。

階段そのものが転倒しやすい環境の要因となっている場合、以下のような対策が考えられます。

  • 手すりを設置する
  • 滑り止めを付ける
  • 靴下やスリッパの使用を控える

段差の高さや踏み面については、簡単に改善できません。階段そのものが転倒しやすい環境と判断される場合、改修工事が選択肢として挙げられます。

しかし、階段の改修となるとお金もかかるため、そもそも階段を使わずに活動できるように環境を整えるなどの対策も考えたほうが良い場合もあるでしょう。

静養室(ベッドがあるスペース)

静養室では、ベッドからの起立や就寝時の移動で転倒が発生しやすくなります。ベッド周りの環境や利用者の身体状況によってリスクが高まります。

たとえば、以下のようなケースが考えられるでしょう。

  • ベッドの高さが合っていない
  • 利用者のバランス能力が低下している
  • 眠剤を飲んでいる

対策としては、ベッドの高さを調整したり、ベッドガードや手すりを設置したりするのが良いでしょう。滑り止めマットを足元に設置するのも有効です。

眠剤や降圧剤などの薬が影響している場合は、ご自身で調整せず、かかりつけ医に服用する量などを相談しましょう。

施設内でも転倒する可能性があります。以下の記事を参考に、利用者の安全対策につなげていきましょう。
高齢者の転倒リスク|施設内のリスク軽減と転倒事故を防ぐ介助・支援方法

身体機能の向上による転倒予防

転倒予防においては、利用者一人ひとりのニーズに合わせた身体機能の向上が大切になります。

加齢による身体機能の低下は、避けられません。しかし、適切な運動や栄養管理により、身体機能低下を抑え、より安全な日常生活を送ることができます。

介護事業所では、利用者の健康状態や身体能力に応じたプログラムの提供が大切になるでしょう。

転倒予防体操を継続的に行う

体操は、直接的に身体機能の向上に貢献します。体操の内容は、できる限り個別のニーズに合わせて調整することが望ましいです。

ただし、一人ひとりに合った内容の体操をしていても、一時的な運動であれば身体機能の向上は望めません。身体機能の向上のためには、継続的な取り組みが必要です。集団体操と個別に実施できる体操を紹介して、前向きに取り組めるよう支援しましょう。

運動内容としては以下の内容が効果的です。

  • バランス能力を高める運動
  • 下肢筋力を強化する運動
  • 体幹筋力を強化する運動

具体的には以下のような体操が考えられるでしょう。

  • ゆっくりと足踏みをする
  • スクワット
  • 椅子に座って腿上げ

運動のセット数についてはさまざまな意見があり、一概に効果のあるセット数は決められませんが、厚生労働省はレジスタンス運動(筋肉に抵抗をかける動作)については以下のような数を推奨しています。

  • 運動回数:8〜15回
  • セット数:1〜4回
  • 頻度:週あたり2〜3回

「ややきつい」と感じる程度の負荷量で行いましょう。健常であれば、おおよそ8〜16週間で筋力が強くなると考えられています。

転倒予防に効果が期待できる体操を以下の記事でも紹介しています。さまざまなバリエーションを用意し、飽きがこないよう継続していきましょう。
高齢者が毎日運動するために|介護予防・機能維持のためにおすすめしやすい運動・エクササイズ

バランス良い食事の提供

栄養は、身体機能を維持し向上させるための基礎となります。バランスの取れた食事は、筋力の維持・向上に不可欠であり、結果として転倒リスク減少につながります。

食事を提供している事業所では、高齢者が必要とするたんぱく質やアミノ酸を含む食材を選び、バラエティに富んだメニューの提供を心掛けることが大切です。

たとえば、以下のように食事を組み合わせると必要な栄養が取りやすいでしょう。

  • 「きつねうどん」と「ヨーグルト」
  • 「おにぎり」と「卵焼き」と「豚汁」

単品だけでは、必要な栄養を摂取することは難しいですが、組み合わせることで摂りやすくなります。

また、食事のバランスだけでなく、必要な量を接種することも重要になるでしょう。栄養バランスが整っていても、必要なカロリー量を摂取できなければ、筋力の増強は望めません。

その他の転倒予防対策

転倒予防には、身体機能の向上や生活環境の整備だけでなく、さまざまな面からのアプローチが必要です。

以下で、介護事業者がすぐに行える転倒予防対策を紹介します。

自宅での転倒予防対策の啓蒙

介護施設やデイサービスの利用者は、施設内だけでなく自宅でも多くの時間を過ごします。そのため、自宅での転倒予防対策を啓蒙することも重要になります。

介護事業者は、家族への指導や情報提供を積極的に行い、自宅環境を安全に保つための具体的なアドバイスを提供すると良いでしょう。

たとえば、以下のようなアドバイス内容が考えられます。

  • 適切な介助方法の指導
  • 家具の配置の最適化
  • 簡単に活用できる夜間照明の紹介

実践的なアドバイスをすることで、自宅での転倒リスクを低減することができるでしょう。

福祉用具器具の案内・アドバイス

福祉用具器具を適切に活用できると、利用者の希望する生活環境を整えつつ、転倒リスクを低減することも可能です。

事業者は利用者や家族に対して、適切な福祉用具の選定方法などの情報を提供することで、転倒予防対策を通してQOLを高める支援ができるでしょう。

たとえば、自宅内の寝室からトイレまでの移動をしたいと望んでいる利用者がいると仮定します。

その時、以下のような福祉用具が候補として挙げられるでしょう。

  • 歩行器
  • 段差解消スロープ
  • 手すり

身体機能が低下していて、歩行が難しくなっていたとしても、歩行器を使うことで可能になるかもしれません。また、環境などによってはベッドやトイレ周囲に置き型手すりを設置したり、段差部分にはスロープを設置したりすることも重要になるでしょう。

利用者や家族の生活状況の理解に努め、それぞれの生活状況に合ったアドバイスをすることが大切です。

転倒予防の要点を押さえることが安全な生活への第一歩

本記事では、転倒の危険性と主な原因から始め、生活環境の整備や身体機能に焦点を当てて予防策を紹介しました。

転倒は高齢者の健康的な生活に影響を与えるため、予防に努める必要があります。介護スタッフにとっても、転倒予防は積極的に取り組むべき内容です。

転倒予防の要点を押さえ、日々の細かな観察と継続的な支援をすることで、より良いケアを提供できるでしょう。

また、介護事業所内での対策のみでなく自宅での対策の啓蒙や福祉用具の活用といった、施設外での安全を支援することも大切です。

利用者を総合的に把握し、適切に転倒予防対策を実施することで、生活の質を大きく向上させることにつながるでしょう。

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この記事の著者

Rehab Cloud編集部   

記事内容については、理学療法士や作業療法士といった専門職や、デイサービスでの勤務経験がある管理職や機能訓練指導員など専門的な知識のあるメンバーが最終確認をして公開しております。

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