介護の接遇マナー クレーム・苦情対応の7つのテクニックと対応事例 

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更新日:2022/02/25

介護の接遇マナーとしてのクレーム・苦情対応について考えていきますが、まずクレーム・苦情とはどんな意味があり、どのような違いがあるかについてお伝えし、クレーム・苦情の種類に合わせて話しの進め方テクニックや聴き方などの具体的対応方法を使って円滑なクレーム処理をする流れをお伝えします。デイサービス、介護老人保健施設などの介護施設、訪問介護などの訪問サービスでの対応事例なども紹介しながら研修やマニュアルに使えそうな内容を掲載しました。 →忙しすぎるデイサービス業務は、機能訓練ソフト「リハプラン」が解決。

クレームと苦情の違いとは何か

クレームと苦情の違いとは

介護や医療の分野でのクレームや苦情という言葉について正式な定義はありませんが、この記事ではクレームや苦情という言葉の違いを定義立てて対応方法のアプローチにつなげたいと思います。

クレームとは

クレームとは、期待した水準のサービスが得られなかった時に、金銭や機能、サービス品質など実質的な補償を求めることです。クレームのきっかけとなった事案はいろいろですが、要求は、例えば「事前に説明されたサービス内容と違うから返金してほしい」や「もっと高品質のサービスを提供してほしい」などの実質的な補償や賠償の要求につながるものです。

苦情とは

苦情とは、サービスを受けることにより満たされると期待していた、大切にしてもらっていると感じる愛情や、気持ちや考えを尊重してもらえると期待してた尊厳欲求など、心理的な欲求が満たされなかった時に発生するものです。

苦情のきっかけの事案はいろいろありますが、要求は「丁寧にしてほしい」「わかりやすくしてほしい」「もっと優しくしてほしい」「気持ち良い態度にしてほしい」「早くしてほしい」など、気持ちの問題を埋め合わせしてほしい、もう不快な思いをしないように改善してほしいという要求につながる建設的なものが多いです。

クレームや苦情は、得られていない欲求を満たすために起こしている行動であるという側面を考えて対応することが有効です。

介護施設でのクレーム・苦情の種類

介護施設でのクレーム・苦情の種類

クレームには色々な種類がありますが、クレーマー(苦情や要望を言う人)の欲求や要求から内容を整理すると、以下のような4つに分類できます。

  1. 機能や品質が足りない
  2. 費用が高すぎる
  3. 大切に優先的に扱ってほしい
  4. 損害を受けたから賠償してほしい

また、クレームや苦情のきっかけとなる事案には以下のような4種類があります。

  1. お相手が理解できていなかった、説明が不足していた
  2. 相手が誤解していた
  3. 意図的にトラブルに発展させた
  4. 事故や不可抗力

介護や医療などの仕事では、患者様やご利用者に対して、治療、介護、看護、対応などのサービスを提供しますが、それぞれが一生懸命に相手に向き合っても、相手から見たら不十分・不満足という点があるかもしれません。

クレームや苦情をお聞きするのは辛いことですが、業務や対応改善のきっかけを提供してくれているかもしれない、原因は自分たちにあるかもしれないということを考えながら、仕事としてお聞きすることが重要です。

仮に苦情の対象が自分には無関係な同僚の対応のことなどだとしても、お聞きしたら自分が組織の代表で対応しているという気持ちで同僚を思いやることも大切です。そのような対応が、お相手の気持ちを鎮めるかもしれませんし、丁寧に対応することでおおごとにならずに済むかもしれません。良いクレーム対応は、施設や病院のイメージを逆にアップさせるかもしれません

接遇マナー クレーム対応の7つのテクニック 具体的な苦情対応事例

クレーム対応の7つのテクニック

クレーム対応の具体的な技術・テクニックについては、7つのポイントを抑えて進める方法をお伝えします。

クレーム・苦情で訴えたい欲求や興奮度合いを把握

クレームや苦情では、この記事で紹介してきたような欲求が相手にあり、期待に満たなかったその欲求を叶えるために行動に出ている状態です。

相手の訴えはいろいろあると思いますが、繰り返し話していることや、回りくどく言っていることの奥にある欲求について把握して、どうしたら満足してもらえるかということを考えて聞いていきます。なお、苦情やクレームの大きさや、サービス提供者側にどれくらいの落ち度があるかによりますが、この最初の聞き取りではできるだけ初期対応者が対応し、すぐに責任者が出て行かないこともテクニック的には大切です。すぐに最終責任者などが対応してしまうと解決する場合もなくはないですが、興奮状態に対する対応で最終責任者が対応がうまくいかなかった場合にどのように落とし所を見つけていくかの選択肢が狭まるためです。

最初に話をお聞きするのが遅くなったことにお詫びの言葉を

クレームや苦情では、相手からのお詫びの言葉を求めることが多いですが、クレームや苦情になった事案そのものについては即座に謝罪やお詫びをするべきではありません。しかし、お詫びの言葉をクッション言葉として次に繋げることはできます。例を挙げるとすれば、「すぐに不満の気持ちに気付けずに、お話をお聞きするのが遅くなって申し訳ありませんでした」というお詫び言葉を添えることが有効です。相手は不満や不安が溜まってしまい、とうとうアクションに移してしまったという状態がほとんどです。その前にお気持ちの変化に気づくことができなくて申し訳ないとお詫びすることは、接遇的な観点からも良い対応です。

とにかく傾聴して最後まで聞く

介護や医療の仕事の基本的な姿勢として傾聴が重要視されており、クレーム対応や苦情の聞き取りでも最後まで話をよく聞くことが最も大切な姿勢です。

相槌は適度に入れ、話に割り込むことはしない

接遇やマナーとして、相手が話しているときは割り込まないということは多くの人が意識していると思います。しかし、自分にとっては理不尽な訴えを一方的にされていたり、相手が完全に誤解していたり、侮辱的な発言をされたりすると割り込んで否定したくなると思います。相手が興奮してクレームや苦情を言っているときには、特に汚い言葉や関係のない話しなどまでいろいろ話してくることもあります。クレーム対応テクニックとしては、相手が興奮して誤解したまま訴えたり、侮辱的な発言などまで含んでいるときは落ち着いて全て聞き、特にその日は答えなどは出さずに持ち帰るということが有効です。

クレーマーと言われるような人では、ボイスレコーダーなどで録音等していて、言い返したり、喧嘩口調になったりした部分だけを切り取って違った訴えに発展させたり、悪い評判などを広める材料に使ったりするケースもあります。

辛いですがグッとこらえて、相手の訴えや要求の内容と合わせて不適切な発言などもこっそりメモしておき、傾聴している姿勢でいましょう。

相手の立場で、共感しつつできる限り要望に応える姿勢を示す

相手の話について一通り傾聴し、相手の興奮や感情が静まったところで、話の内容を整理していきます。それに合わせ、自分に答えられる範囲で自分たちの立場、自分たちの事情などを説明して合理的に相手の同意や納得感を確かめていきます。相手があまりにも一方的な場合は難しいですが、介護や医療の分野では関係性がよっぽど崩れてしまっている場合や、悪質な場合でない限りは、施設側の立場や事情について伝えることで難しさなどに理解を示そうとしてくださる方もいます。同情を誘うわけではなく、今の状態について説明した上で、相手の要望にもできるだけ答えていくという姿勢を示すことで、次に引き継いで話をするときに、お相手も今回のクレームや苦情の落とし所を考えやすくなり、まとめやすくなると思います。

要望(クレーム・苦情)を話してくださったことへのお詫びの言葉を伝える

クレームや苦情は業務改善やサービス品質向上のきっかけにもなるというお話をしましたが、ほとんどの場合苦情やクレームを言ってくる方は、要望を伝えれば施設や病院は応えてくれると考えてアドバイスや指導という意味合いも込めている場合が多いです。得るものが少しでもあったら「業務改善やサービス品質向上の気付きのきっかけを与えてくださりありがとうございます」というニュアンスのことを伝えます。また一方的で到底寄り添えない要望の場合には、「お気持ちの変化に気付けず、お話をお聞きするまでお時間をいただいき申し訳ありませんでした」というお詫びの言葉を再度伝え精一杯の誠意を示しましょう。

担当者や責任者に内容を伝え、対応ランクごとに引き継いでいく

介護や医療のクレーム・苦情には、実質的な保証を求めるクレームと、心理的な埋め合わせを求める苦情があります。施設や病院では、クレーム報告書や苦情対応票などの記録様式などを定めていて、担当者や責任者に提出共有する方式をとっていることが多いと思います。訴えの言葉や内容、自分の対応などを的確に伝えて、引き継ぎましょう。

クレーム対応の基本の話し方(クレーム処理方法)

クレームと捉えるとできるだけ早急に処理したいという気持ちが先行しますが、介護施設に寄せられるクレームや苦情には、要望や再確認の意味合いが強い問い合わせや連絡が多く含まれています。

クレーム対応のときには、ポイントを押さえて対応する必要があります。

介護施設の苦情相談窓口の設置義務

介護保険サービスの事業所には、運営基準上「利用者及びその家族からの苦情に迅速かつ適切に対応するために、苦情を受け付けるための窓口を設置する等の必要な措置を講じなければならない。」などの法律上の苦情窓口の設定義務があります。この苦情相談窓口は、事業所の中で苦情対応責任者を選任することや、区市町村の窓口、国保連合会や保険組合などの保険者に関わる窓口などを、重要事項説明書などでご利用者やご家族に説明する必要があります。

デイサービスなどの通所施設での苦情・クレーム事例

・職員の介護方法、対応方法、言葉遣い、態度などに関する要望
・送迎時間や送迎時の介助方法について希望通りにならないことによる苦情
・連絡帳の内容や、ご利用者本人が家族に話したことから生じる誤解が招いたトラブル
・食事中や排泄時に衣類が汚れてしまったが、その点についてご家族に伝達せず、後から気がついてしまったときの苦言
・家族がご利用者が軽い要望として話したことに対して、反抗的な態度や言い訳のような表現をして立腹させてしまったことに対するクレーム
・ご利用者の自宅や病気のことなどの個人情報について、他の利用者に詳しく知られてしまった
・利用者やご家族からの要望に対して、無責任に解凍してしまい、その結果要望の内容が果たせなかったり、忘れてしまっていたりした時

介護老人保健施設などの介護施設の苦情・クレーム事例

  • 退所の時期や対処に向けた段取りについて苦情
  • 介護中の出来事や生活に必要な物品や費用についての認識の違いから発生した苦情
  • 余命や病気の詳細について本人に知らせないという約束だったが話してしまったことについての苦情
  • 介護方法や対応方法を取り決めたが、スタッフに十分に共有されていなかったことによる苦情
  • 施設の医師や看護師が医療的な面や治療などでどこまで対応できるかの認識の違いによる不満
  • 包帯などの治療補助具の費用に関する苦情
  • 家族に連絡を入れる頻度についての苦情
  • 軽度の事故や介護上の難しさなどについて相談や報告が不足していたことについての苦情
  • 介護保険制度について理解ができないという不満
  • 入所の日程についての苦情
  • 施設入所中に感染症にかかってしまった時や施設内での避けられない転倒事故や自傷事故などに関わるトラブル
  • 職員の声掛けや、ご利用者の物品、衣類などに関する要望

訪問介護などの訪問サービスでの苦情・クレーム事例

  • 訪問した時に、家庭内の物品を壊されてしまった
  • 二人きりになった時に、不快な話をされた、不快な行為をされた
  • 約束した時間に来ない、予定されている時間より短い
  • 訪問してもらったときに頼みごとをしたが聞いてもらえなかった

介護施設、病院での苦情・クレーム対応研修では、接遇面を含めて相手に不快感を与えないためのチェックポイントや、実際に苦情を伝える役、苦情を受け付ける役に分かれてシミュレーションを行うなどの研修があります。

苦情やクレームを訴えている方は、興奮していることが多いので、クレーム苦情対応時には言葉遣いや態度、身だしなみなどの接遇マナー面には細心の注意が必要です

接遇マナーについては、各項目について下記の記事で紹介しています。

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クレーム・苦情対応マニュアルとしては、もっとも大切なことは普段から行うべき接遇マナーの内容です。また、苦情やクレームの内容を的確に伝達していくために、施設や病院ごとに定めている苦情対応フローや、クレーム対応記録、お客様やご利用者からの声を取り入れた例などを誰もがわかるように共有することが大切です。

デイサービスの経営や運営は様々な視点から行っていくことが重要だといえます。これまでのやり方に加えて、稼働率アップさせるための営業戦略や、より業務効率化・生産性向上に貢献するITツールの導入などを検討していってもよろしいのではないでしょうか。

これら経営や運営に関する記事を一挙にまとめていますので、該当する記事を読んでいただき少しでも参考にしていただけたらと思います。

→→ 【完全保存版】デイサービス経営改善・運営・営業戦略・ITツール・実地指導・接遇に関する記事まとめ|随時更新

ICTの利活用でサービスの質と業務効率を同時に高める

2024年の医療介護同時改定では、団塊世代の高齢化を見据え、自立支援を中心とした科学的介護の実現、そしてアウトカムベースの報酬改定に向けて変化しようとしています。

このような時流だからこそ、より一層利用者さまの自立支援に向けた取り組みが重要になります。しかし、個別機能訓練加算をはじめとした自立支援系の加算やLIFE関連加算の算定は、売上アップも見込めるとはいえ、リハビリ専門職の不在や現場負担の問題で取り組みが難しいと考える事業所も多いのではないでしょうか?

その解決策の1つが「介護現場におけるICTの利用」です。業務効率化の意味合いが強い昨今ですが、厚生労働省の定義では「業務効率化」「サービスの質向上」「利用者の満足度向上」の達成が目的であるとされています。

業務効率化だけでなく、利用者一人ひとりの生活機能の課題を解決する『デイサービス向け「介護リハビリ支援ソフト」』を検討してみませんか?

この記事の著者

作業療法士  大久保 亮

リハビリ養成校を卒業後、作業療法士として、通所介護事業所や訪問看護ステーションにて在宅リハビリテーションに従事。働きながら法政大学大学院政策学修士を取得。その後、要介護者、介護現場で働く人、地域住民まで、介護に関わるすべての人が安心していきいきと活躍し続けられる世界の実現を目指して2016年6月株式会社Rehab for JAPANを創業。また、日本介護協会関東支部局副支部長を務める。

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