介護現場のリスクマネジメント・事故防止【研修会資料まとめ】

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更新日:2022/02/17

リスクマネジメントとは、介護事故のリスクを把握し、組織的に管理することで事故を未然に防ぐことを目的とした活動です。介護現場での事故や事件、ヒヤリハットやトラブルは一生懸命に働いていると必ず起こってしまい、事故を起こしたスタッフは利用者様の安否を想い心が苦しくなります。そこで今回は、介護スタッフ向けにリスクマネジメントの研修資料から重要な取り組み方を4つのステップに分けてまとめてご紹介します。

介護現場のリスクマネジメントとは

介護現場におけるリスクマネジメントの考え方

介護現場におけるリスクマネジメントとは、介護事故のリスクを把握し、組織的に管理することで事故を未然に防ぐことを目的とした活動です。

利用者様の「安心・安全」を守るためにも、介護事業所の信用を高めるためにも、運営上必須の課題です。そこで本稿では、介護現場向けのリスクマネジメト研修資料からの基本的な考え方からご紹介します。

リスクマネジメントの考え方について

介護現場では利用者様の「安心・安全」を確保することが前提にありますが、リスクマネジメントに取り組むことで職員を守ることにもつながります。

そのため安心・安全を確保するリスクマネジメントでは「介護事故の報告」「介護事故の防止」「事故が発生してしまった際の対応方法」「委員会の設置」「職員教育」「設備投資」など各種の管理体制が必要になります。

職員や組織がリスクを意識した活動を行うことによって、介護事業所としてご利用者様により安全で質の高いサービスを提供することができるようになります。

リスクマネジメントの重要性について

介護事業所でのリスクマネジメントは、なぜ重要なのでしょうか?

介護サービスの利用者様のほとんどは高齢者。年を重ねるごとに、どうしても心身の変化(機能の低下)は起こります。その影響で免疫力が低下すると病気にかかりやすくなりますし、バランス機能が低下すると転倒を引き起こすこともあります。

まずは高齢者の心身の状態の変化について整理してみましょう。

高齢者の身体の変化

  1. 視力が低下してくる
  2. 歯が弱くなる
  3. 耳とおくなる
  4. 骨が弱くなる、脆くなる
  5. 関節がスムーズ動かせなくなる
  6. 筋肉が細くなり、伸び縮みする力が弱くなる
  7. 心臓、肺、血管が固くなる、弾性力が弱くなる


高齢者のこころの変化

  1. 新しいことを覚える力が低下してくる
  2. 環境の変化になじみにくくなる
  3. 疲労を感じやすくなる 
  4. 集中できる時間が短くなる 
  5. 物事にあまり関心がなくなる


以上のような変化によって、事故の危険性も高まります。実際に介護現場での事故発生状況としては、圧倒的に「高齢者の転倒」が多く、一度の転倒によって「骨折」につながるケースもあります。骨折は予後のADLを低下するだけでなく、QOL自体も下げてしまうこともあるので、介護職員は転倒予防に留意して接することが重要となります。

想定される事故を見つけ出し、どのような場面で起きやすいのかを理解し、対策方法をスタッフで共有するといった、リスクマネジメントの取り組みが非常に重要になるのです!

転倒予防のためには、日頃の機能訓練が重要!デイサービスの機能訓練業務には「リハプラン」がおすすめ!

介護現場のリスクマネジメントの4つのステップ

介護現場におけるリスクマネジメントの4つのステップ

介護現場で安心・安全を確保するリスクマネジメントを進めていくための取り組みには、4つのステップがあります。

リスクマネジメントの4つのステップ】リスクの特定(発見・把握)リスクアセスメント(分析・評価)リスク対応(対応策)リスクコントロール(運用)

介護リスクマネジメントのステップ1|リスクの特定(発見・把握)

リスクの特定|介護現場のヒヤリハット事例を学ぼう!

最初に「リスクの特定」の進め方についてご紹介します。まずは、施設・事業所内で利用者を被害を与えてしまう可能性があるものを発見・把握しましょう。これは現場で挙げられたヒヤリハット報告書や事故事例報告書を参考にすると良いでしょう。

ヒヤリハット報告書」の「ヒヤリハット」とは、事故に至らなかったものの、事故に直結してもおかしくない「ミス」や「冷やり」「ハッ」としたことを指します。1件の大きな事故の裏には、29件の軽傷な事故、そして300件のヒヤリハットがあるとされています。

これは「ハインリッヒの法則」の中の、労働災害における1つの考え方です。この法則に則ると、ヒヤリハット報告書を300事例出すことで、29件の軽傷な事故を未然に防ぎ、1件の大きな事故を防ぐことができることになります。ですから「ヒヤリハット報告書」を制度化して事業所内の事例を溜めていくことをおすすめします!

介護リスクマネジメントのステップ2|アセスメント(分析・評価)

リスクアセスメント|ヒヤリハットを評価・分析しよう!

次にご紹介するのは「リスクアセスメント」の仕方について。

まずはステップ1で、ヒアリハット報告書をもとに「総数」「事故のレベル」「場所」「時間帯」を集約し、事故が多く起こっている場所や時間帯を把握していきます。次に、ヒヤリハットがなぜ発生したのかその要因の分析を行います。1つのヒヤリハット事例に対して「人的要因」「設備的要因」「環境的要因」「管理的要因」の4つ分けて分析してください。この作業により見つけた要因に対して対策を立てていくことで「職員研修なのか」「設備の問題なのか」「管理体制の問題なのか」などを把握でき、より具体的な解決策を立案できるようになります。

〈事例〉入浴中のヒヤリハット報告と要因分析

【事例】入浴介助中に浴室内で滑って転倒してしまった

【要因分析】

  • 人的要因:スタッフが床面の確認をしていなかった
          介助位置が遠く、介助方法も不十分であった
          利用者は目が悪く足元が確認できなかった
  • 設備的要因:浴室の床面の水が流れにくかった
          シャワーが届かず流せない場所であった
  • 環境要因:スタッフの人数が不足していた
          一度に多くの利用者が使用していた
  • 管理的要因:介助する担当スタッフが決まっていなかった
          浴室を流すなどのルールが決まっていなかった

介護リスクマネジメントのステップ3|リスク対応(対応策)

リスク対応|事故発生時の緊急対応を考えよう!

3つ目は「リスク対応」の進め方についてご紹介します。

リスク対応では、緊急時にどのような対応をするべきか具体的な対策を立てます。この活動も一般には安全管理委員会のスタッフの役割となります。

事故の早期発見、早期対応を行うことで被害を最小限に抑えることがリスク対応の考え方です。事故を発見した時や、事故を起こしてしまったときに、私たちは落ち着いて迅速かつ的確な対応を行わなければなりません。いざというときに備え、あらかじめリスクを想定した対応手順を「マニュアル」として整備し「職員研修」によって職員全体に把握してもらいましょう。また、転倒や転落だけでなく感染症や食中毒、熱中症などの対策も視野にいれておきましょう。

リスク管理マニュアルを1から作成する場合は、厚生労働省「高齢者介護施設における感染対策マニュアル」が参考になります。

参照:厚生労働省 平成25年「高齢者介護施設における感染対策マニュアル」(平成29年6月23日アクセス)

介護リスクマネジメントのステップ4|リスクコントロール(運用)

リスクコントロール|安全管理委員会を設置しよう!

リスクマネジメントの4つ目は「リスクコントロール」について。

リスクコントロールとは、組織として運用できるようにシステム化していくことです。具体的には、「リスク対応」で決定した手段を実行したり、業務マニュアルを整備したり、職員研修、家族との関係構築などを取り組みます。

参照:東京都福祉保健局 平成21年「社会福祉施設におけるリスクマネジメントガイドライン」(平成29年6月23日アクセス)

リスクコントロールでは、リスク対応で決定したマニュアルに沿って、事業所全体で取り組んでいきましょう。事故は発生しないことが一番ですが、いつ起こるかわからないことですのでスタッフも周知するのに時間がかかります。職員一人ひとりが理解を深め、安心・安全を継続するのためにもシステム化することが重要です。

システム化し継続的に運営するために「安全管理委員会」の設置があります。安全管理委員会を開催する場合に参考にしていただきたい「構成メンバー」や「実施内容」についてご紹介します。

■安全管理委員会の構成メンバー

部門、職種、職位など多職種でメンバー構成とすることで偏りがなく現場に即した実効性のある対策の議論、活動へとつながることが期待できます。

  • 施設長
  • 介護士
  • 相談員
  • リハビリ
  • 看護師など

■安全管理委員会の実施内容

  • ヒヤリ・ハットや事故事例などの収集・分析
  • 事故の対策方法の検討・決定
  • 定期的な評価
  • 家族への報告
  • 定期的な報告会

これらを参考に委員会として定期的リスクマネジメントに取り組める体制を整えていきましょう!

まとめ

リスクマネジメントは極めて重要な取り組み

介護現場のリスクマネジメントは、高齢者施設や通所介護などの利用者様を守るためにも、スタッフが快適に働くためにも危険をマネジメントし、未然に防ぐ、最小化すことは極めて重要な取り組みです。

しかしながら、介護現場におけるリスクマネジメントの取り組みはいまだ十分に共有・蓄積されていない施設をお見かけします。

介護現場でリスクマネジメントの取り組みを行うためには、介護サービスを提供する中で想定される事故やリスクを洗い出し、どのような場面で起きやすいのか、同様の事故がどれだけの起こっているのかなど安全管理委員会を通して正しく分析・評価することが必要です。その上で、リスクの発生を最小限に食い止める業務マニュアルや緊急時対応マニュアルなどの運営体制を整えておくことが求められます。

実際にそういった体制や仕組みを構築したとしても、運用上、現場ではなかなか機能していない問題点もあります。

継続的に取り組む「仕組みづくり」と「報告しやすい雰囲気」

ここまでリスクマネジメントの4つのステップをご紹介しましたが、リスクマネジメントを取り組んだだけで満足しては不十分です。

■継続的に取り組む仕組みづくり

このリスクマネジメントを介護事業所の運営として継続的に進めて行くためには、組織全体としてPDCAサイクル(※1)を回していく必要があります。このサイクルを回していくことで介護施設全体としてサービスの質の向上を目指していきましょう!

現場のスタッフからの事故の報告、ご利用者様・ご家族からのクレーク、職員からの提案は、介護事業所がより安心・安全なサービスを提供するために重要なご意見です。

その大切な意見を無駄にしないためにも、このサイクルを定着させることがリスクマネジメントの最終的なゴールです!スタッフ一人ひとりが問題を発見し、報告しやすい風通しの良い職場の雰囲気を作り、その解決策を見つけ出すサイクルを定着化していきましょう!

(※1)PDCAとは、PLAN(目標設定)⇒ DO(実行)⇒ CHECK(検証)⇒ ACTION(目標の修正と実行)の手順を指します。

■報告しやすい雰囲気づくり

スタッフや施設の成熟度を考え、リスクマネジメントの研修では現場レベルでリアリティーが持てるように落とし込んでいきましょう。

リスクマネジメントをする上では、リスクの特定が第一歩であり、そのためには事故やヒヤリハット・インシデントをひとりひとりが当事者意識を持って風通しよく報告しやすい雰囲気を作っていくことが必要です。リスクマネジメント研修でも、一方的な座学研修にならないように一人一人に感想を聞いてみることや、硬くない感じで事例や出来事を話してみるなど、その後もリスクが共有していける土台を作っていくことが大切です。

少しずつ次のステップへ向上できるように継続的に取り組んでいただければと思います。今回のリスクマネジメントの進め方と運営方法を通じて、皆さんの事業所でもリスクマネジメントの取組が進展し、利用者様へのサービスの質の向上とスタッフが安心して働ける環境づくりに繋がれば幸いです。

ICTの利活用でサービスの質と業務効率を同時に高める

2024年の医療介護同時改定では、団塊世代の高齢化を見据え、自立支援を中心とした科学的介護の実現、そしてアウトカムベースの報酬改定に向けて変化しようとしています。

このような時流だからこそ、より一層利用者さまの自立支援に向けた取り組みが重要になります。しかし、個別機能訓練加算をはじめとした自立支援系の加算やLIFE関連加算の算定は、売上アップも見込めるとはいえ、リハビリ専門職の不在や現場負担の問題で取り組みが難しいと考える事業所も多いのではないでしょうか?

その解決策の1つが「介護現場におけるICTの利用」です。業務効率化の意味合いが強い昨今ですが、厚生労働省の定義では「業務効率化」「サービスの質向上」「利用者の満足度向上」の達成が目的であるとされています。

業務効率化だけでなく、利用者一人ひとりの生活機能の課題を解決する『デイサービス向け「介護リハビリ支援ソフト」』を検討してみませんか?

この記事の著者

作業療法士  大久保 亮

リハビリ養成校を卒業後、作業療法士として、通所介護事業所や訪問看護ステーションにて在宅リハビリテーションに従事。働きながら法政大学大学院政策学修士を取得。その後、要介護者、介護現場で働く人、地域住民まで、介護に関わるすべての人が安心していきいきと活躍し続けられる世界の実現を目指して2016年6月株式会社Rehab for JAPANを創業。また、日本介護協会関東支部局副支部長を務める。

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