高齢者のバランス評価とポイント|バランス能力のリハビリ・筋力トレーニング

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更新日:2024/04/07

高齢者を対象としたサービスであれば誰しも懸念するのが転倒事故ではないでしょうか。バランス障害は病気の影響以外に、加齢による全身的な運動機能の低下によっておこると言われています。今回は、そんな高齢者のバランスを評価するポイントとバランス訓練についてご紹介します。

高齢者のバランス能力低下の原因

ご高齢者のバランス能力と転倒の関係性

厚生労働省老健局(平成22年)の調査によると、介護保険非認定者の23.3%の方が過去1年間で転倒経験があったと報告しています。つまり、1/5名以上の確率で転倒していることになります。

一般的なご高齢者のバランス能力の低下は、脳血管障害などにより平衡感覚が障害された疾患の障害とは異なり、加齢による全身的な運動機能の低下によって起こるとされています。その全身的な運動機能の衰えによって転倒する危険性が高くなるのです。

高齢者の運動機能の低下には、 ⑴姿勢の変化、⑵重心動揺の変化、⑶加齢的変化の大きく3つが関係しています。ご高齢者の転倒の要因でもあるこの3つの特徴を理解して転倒を予防していきましょう!

次章より、この3つの特徴について詳しく解説していきます。

参照:厚生労働省老健局 平成22年「日常生活圏域ニーズ調査 モデル事業・結果報告書」老振発第0327第2号(2016年11月4日アクセス)

バランス機能評価のポイント

高齢者の運動機能の低下には、 ⑴姿勢の変化、⑵重心動揺の変化、⑶加齢的変化の大きく3つがあります。

立位姿勢について

立位姿勢についてのバランス機能

それではまず、ご高齢者のバランス評価ポイントとして「立位姿勢」について解説します。

高齢者の立位姿勢の変化として、約30%の方々が脊椎の後弯が起こり「猫背」の姿勢になります。このまま猫背の姿勢をとってしまうと、歩幅が減少してしまったり、重心が後方にシフトして転倒しやすくなってしまいます。

まずは、背中が丸くなっていないか立位の姿勢を評価していきましょう!

参照:大高洋平. “高齢者の転倒予防の現状と課題.” 日本転倒予防学会誌 1.3 (2015): 11-20.(平成29年4月5日)

重心動揺

重心動揺のバランス機能

次に、ご高齢者のバランス評価ポイントとして「重心動揺」について解説します。

人が立っている時に姿勢が崩れそうになると、その揺らぎの大きさや速さ、方向などを無意識的に感知し、立ち直り反射によって修正しています。高齢者の場合は、この揺らぎの感知や適切な修正がされにくいため、重心動揺が大きくなり転倒の危険性が高まります。目を閉じたまま(閉眼)体が揺れずに立っていれるか、重心動揺を評価しておきましょう!

加齢変化

加齢変化とバランス機能評価

次に、ご高齢者のバランス評価ポイントとして「加齢変化」について解説します。

一般的に加齢により痛覚・触覚などの「皮膚感覚」、筋肉の収縮を感知する「深部感覚」が低下すると言われています。そのため感覚優位のバランス保持から視覚優位のバランス保持に変化していきます。しかしながら、ご高齢者の場合は、老眼や白内障などにより視力低下や狭窄をきたしてしまうことも多くなり、足元の段差に気づかず転倒してしまうことがあります。

その他の加齢に伴う身体変化の特徴と転倒の危険性について以下にご紹介します。ご高齢者のバランスが不安定になる原因となりますのでチェックしておきましょう!

【加齢変化と転倒の危険性】

  • 平衡感覚の低下
    →前庭神経繊維の減少によりバランス機能の低下します
  • 体性感覚の低下
    →感覚の低下により体の反応が遅くなります
  • 老眼、白内障
    →視力低下や視野の狭窄があり目が見えにくくなります
  • 認知障害
    →注意機能が低下します
  • 筋力低下
    →太もも、お尻などの筋力が低下します
  • 二重課題遂行能力の低下
    →他に注意が向くと足元などに注意が払えなくなります
  • 低栄養
    →低栄養やビタミンD欠乏などによるサルコペニア(虚弱)を引き起こします。
  • 眠剤
    →眠剤の影響によりふらつきが起こります
  • めまい
    →めまいや起立性低血圧の影響によりふらつきが起こります

バランス評価の方法について

ご高齢者の転倒予防のためのバランス評価は、ご利用者の転倒の危険性を判断するためのテストです。様々なバランス評価がある中で、今回はバーグバランススケール(BBS)をご紹介します。

Berg Balance Scale(BBS)

Berg Balance Scale(BBS)

バーグバランススケールは、最大スコアは56点で、カットオフ値(※1)は、0-20点でバランス障害あり,21-40点で許容範囲のバランス能力,41-56点で良好なバランス能力とされ、信頼性も高いテストです。しかし、評価項目が14項目で評価に10〜15分を要すため理学療法士などの専門職に評価してもらう必要があります。

【カットオフ値】

  • 0-20点:バランス障害あり
  • 21-40点:許容範囲のバランス能力
  • 41-56点:良好なバランス能力
    ※最大スコアは56点

【病棟でのカットオフ値】

  • 46点以上:病棟内自立判定基準
  • 36点以上:病棟内見守り判定基準

(※1)カットオフ値とは、転倒の危険性の高い郡と危険性の低い郡をわける値です。

転倒のリスクは、「身体的なもの」「認知・心理・行動的なもの」「環境的なもの」「課題や動作によるもの」など様々あり、高い精度で転倒を予測していくことは困難です。そのため、理学療法士などの専門職と共にいくつかのテストを組み合わせることで転倒の予測精度を高めていくことをお薦めします。

ご高齢者の転倒の危険性を判断するバランス評価については以下の記事でご紹介しています。もっと詳しく見たい方はこちらの記事をご覧ください。

【関連記事】
Berg Balance Scale(バーグバランススケール)の評価方法とカットオフ値の基礎知識
信頼性の高いBerg Balance Scale (BBS:バーグバランススケール) の評価方法やカットオフ値についてまとめてご紹介。

バランス訓練のやり方について

ここからはご高齢者に向けたバランス訓練のやり方について詳しくご紹介して行きます。  

ランジトレーニング

ランジトレーニング
ランジトレーニング

まずご紹介するご高齢者向けのバランス訓練は、つまづく・ふらつく・滑るなどの状況において瞬時に足を踏み出したり、片脚で体重支持したり、位置を修正するための身のこなしができるためのバランス能力を獲得することが目標となります。運動の際は、バランスを崩さない範囲で足を開き、重心を「前後移動」「左右移動」させましょう。

【目標回数】

10回×2セットを目安に行いましょう。

片足立ちトレーニング

片足立ちトレーニング

次にご紹介するご高齢者のためのバランス訓練は、片脚立位です。目を開けた状態での片足立ちでは、14秒以下になると運動器不安定症のリスクが高まるとされています。バランスが不安定な方は、壁や椅子などに手を添えて行うことをお勧めします。また、開眼立位が可能であれば、次に閉眼立位と難易度を高めて取り組むこともお勧めします。足をあげる際は、背中が丸くならないように意識しましょう!

【目標回数】

15秒以上×5回を目安に運動を行いましょう。

 

タンデム歩行トレーニング

タンデム歩行トレーニング

こちらのバランス訓練は、タンデム歩行と呼ばれる運動です。バランス評価の一つでもあり、治療プログラムとして応用できるトレーニングです。運動の際は、かかととつま先を付けて歩くように意識します。可能であれば、床にラインを引くなど目印を付けて訓練することをお勧めします。

【目標回数】

10歩を目安に行いましょう。

ステップトレーニング

ステップトレーニング
ステップトレーニング

こちらのバランス訓練は、足を前後左右に一歩踏み出す「ステッピング」と呼ばれる訓練です。主に体の体重を支える太ももとお尻の筋力アップとバランスを鍛えることができます。ステップを伴うダイナミックな運動になるため、膝や股関節に痛みがない方にお勧めします。より実践的なバランス訓練として活用してみてはいかがでしょうか。

【目標回数】

10回×2セットを目安に行いましょう。

段差昇降トレーニング

段差昇降トレーニング

最後にご紹介する、ご高齢者のためのバランス訓練は、段差昇降の運動です。段差昇降は、片足で体重を持ち上げる力やバランスを鍛えることのできる応用動作です。まずは手すりを使用して安全に運動していきましょう。自宅に上がり框や階段がある方には、ぜひ取り組んでいただきたい訓練です。

【目標回数】

5往復を目安に行いましょう。

他にもバランス維持・向上に役立つトレーニングをたくさん紹介しています。いろんなバリエーションに取り組んでいきましょう。
【理学療法士監修】器具なしでできるバランストレーニング|高齢者のバランス能力の維持・向上に役立つ運動17選

まとめ

今回は、ご高齢者のバランス評価と運動方法についてご紹介しました。

高齢者の身体機能の特徴を十分に理解した上で、少しでも根拠のある運動を選択し、運動指導をして頂ければ幸いと思います。

リハプランでは、今回ご紹介したご高齢者のバランス評価など身体機能評価について詳しくご紹介しています。ぜひそちらもご覧ください。

デイサービス運営において必要な「評価・測定」について、一挙にまとめていますので、必要に応じて活用していただければと思います。

→→ 【完全保存版】デイサービスで活用できる評価・測定に関する記事まとめ|随時更新

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この記事の著者

作業療法士  大屋 祐貴

作業療法士として、回復期リハビリテーション病院や救急病院、訪問リハビリに勤務し、医療・介護現場の幅広い分野を経験。現場のリハビリテーション技術を高めるために研修会の立ち上げ等を行う。

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