実地指導とは|監査との違いを理解しよう

介護保険法

基本報酬

更新日:2022/02/21

本稿ではデイサービスの実地指導と監査の違いや運営指導・報酬請求指導、実地指導当日のスケジュールについて詳しくご紹介します。デイサービスを運営する上で介護保険法制度の運営基準に沿って法令を遵守することが求められているため今回の記事で実地指導の流れや注意するポイントを理解していきましょう。

実地指導とは

実地指導とは、行政の実地指導監督が介護事業所を直接訪問し、用意された書類やヒアリングによって介護保険法に則った運営ができるようにアドバイスが行われます。

通常、実施指導が入る場合は、実施前の2週間前までにはその通知が事業所に届きます。実地指導で人員配置など不正を行っている可能性が高い場合は、後日監査を実施されることになります。

監査とは

監査とは、人員基準や設備基準及び運営基準等の指定基準違反であると認められる場合、又はその疑いがあると認められる場合に保険給付の適正化、事業所体制の適正な整備・運用行われるように適切な措置が行います。

その結果として、報告等、改善勧告、改善命令、指定の効力、指定の取消しなどの行政処分が行われます。

参照:厚生労働省 「都道府県・市町村が実施する指導及び監査の流れ」

実地指導と監査の違いとは

実地指導と監査の違いとは

[出典]厚生労働省 都道府県・市町村が実施する指導及び監査の流れ

デイサービス(通所介護)などの介護保険事業所で実施される「実地指導」と「監査」は同じものだと思っていませんか?

実地指導と監査を同じものと捉えている人が多いですが、これらは全く異なります。

実地指導は「事前通知」がありますが、監査は「事前通知」はありません。

実地指導と監査の大きな違いは監査は問題があった場合に行われるということです。

監査の対象となる問題には、以下のようなものがあります。

  • 実地指導での情報
  • 通報、苦情、相談などに基づく情報
  • 国保連、地域包括支援センターなどへ寄せられる苦情
  • 国保連、保険者からの通報情報
  • 介護サービス情報の公表の拒否などの情報

実地指導の目的とは

実地指導の目的とは

実地指導の目的は、介護事業所を最適に運営するために行政から「指導」や「アドバイス」を受けることです。

介護保険法は、平成24年、27年、30年と3年に1度の改定がありますが、その制度は年々細分化されており複雑化されています。また、自治体によってもルールが異なるため介護事業所によっては管理・運営が正しく行えているのか不安があるのではないでしょうか?

厚生労働省から運営に関する基本的な制度や算定要件について通達されていますが、行政スタッフが介護事業所に直接出向いて指導してくれる「実地指導の機会」を通して、行政と事業所の解釈の違いを正し、最適に運営していけるようにしていきます。

実地指導では、指導やアドバイスが主となりますが、運営や加算における人員配置などが不明確な場合はアドバイスではなく指定基準違反と判断されるため注意しましょう。

最低限の基本的な配置基準を抑えた上で、計画書の作成方法など日常的に疑問を感じていることや地方自治体による認識の違いなどを質問するのも良いでしょう。

実地指導の機会に行政と積極的にコミュニケーションを取っていき認識の違いを埋めていきましょう。

ただし、行政のスタッフに質問をする場合は、「○○と考えて〜のように運営していますが、○区ではどのように運営することが最適とお考えでしょうか?」などと事業所の認識を述べた上で質問する方が良いでしょう!

【関連記事】
実施指導マニュアル|実地指導における基礎知識
実施指導に必要な基礎知識が記載されている「全国老人保健施設協会」の実地指導マニュアルをこちらの記事でご紹介しています。実地指導についてもっと詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。

行政指導には実地指導と集団指導がある

行政指導の「実地指導」と「集団指導」

[出典]厚生労働省 都道府県・市町村が実施する指導及び監査の流れ

都道府県・市区町村が実施する、介護事業所を対象とした行政指導には「実地指導」と「集団指導」の2種類があります。

実地指導の内容について

実地指導の内容は、行政の実地指導監督が介護保険事業所に直接出向いて行われ、主に関係書類を基に「運営指導」や「報酬請求指導」を行います。

集団指導の内容について

集団指導は、制度管理の最適化をするために各介護事業者を集めて開催させる説明会です。集団指導の内容は、指定事務の制度説明や改正介護保険法の趣旨・目的の周知及び理解の促進、介護報酬請求に係る過誤・不正防止などの説明を行います。

実地指導には運営指導と報酬請求指導がある

実地指導の「運営指導」と「報酬請求指導」

ここで、実地指導の内容について詳しく説明します。

実地指導の内容には、大きく分けて「運営指導」と「報酬請求指導」の2つがあります。

運営指導の内容について

実地指導の中でも運営指導は、高齢者への虐待防止や身体拘束禁止等の観点から指導を行います。主に個々の後利用者様毎のケアプランに基づいたアセスメントやサービス計画、実施ができているかを書類とヒアリングから確認します。

厚労省が定める運営指導の内容は、以下の通りです。

高齢者虐待防止、身体拘束禁止等の観点から、虐待や身体拘束に係る行為及びそれらが与える影響についての理解、防止のための取り組みの促進について指導。

利用者毎のニーズに応じたケアプランの作成からケアプランに基づくサービス提供、計画の見直しまでを含む一連のケアマネジメントプロセスの重要性について理解を求めるためのヒアリングを行い、生活支援のためのアセスメントとケアプランの作成等が適切に行われ、個別ケアの推進について、「運営指導マニュアル」を用いて運営上の指導を実施。

–厚生労働省 介護保険施設等実地指導マニュアルより–

報酬請求指導の内容について


実地指導の中でも報酬請求指導は、介護保険での各種加算について不正に請求されていないか等の観点から指導を行います。

主に必要な人員基準・設備基準・運営基準の体制が確保されているか、計画書作成は他職種と協働して作られているかなどを書類とヒアリングから確認します。

ちなみに、高齢者保健福祉担当課長会議の資料(平成24年度)によると、指定取消を受けた理由の「ベスト3」は以下の通りです。

1位|介護給付費の請求に関して不正があった
2位|帳簿書類の提出命令等に従わず、又は虚偽の報告をした
3位|設備及び運営に関する基準に従った適切な運営ができなかった

また、厚労省が定める報酬請求指導の内容は、以下の通りです。

施設、事業所が届出等で実施する各種加算等に関する指導については、報酬基準に基づき介護保険給付の適正な事務処理を行わせるとともに、基準要件に適合した加算に基づくサービスの実施を行わせることにより、不正請求の防止と制度管理の適正化を図るとともに、よりよいケアへの向上に向けた施設・事業所への支援を図ることを目的とする。

–厚生労働省 介護保険施設等実地指導マニュアルより–

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実地指導までの流れ

実地指導までの流れをご紹介

急に実地指導があっても書類の準備もできていないし困る」という方のために、実地指導が行われるまでの手順をご紹介します。

 

1. 通知文
(約2週間前〜2か月前:日程や事前提出資料の依頼などの文書が送付される)

2. 指定日
(直接担当課へ届けるか、郵送する)

3. 実地指導前日
(地域によって異なりますが、前日に日程を確認する連絡が入る)

4. 実地指導当日を迎える

実地指導当日のスケジュール

実地指導当日のスケジュールをご紹介

[出典]厚生労働省 介護保険施設等実地指導マニュアル

次に、実地指導当日の標準的なスケジュールをご紹介します。

介護事業所の実地指導では、主に「9:00〜17:00」まで1日かけて指導があると考えて、管理者を「1名以上」余裕をもって配置しておくことをオススメします。

【運営指導】

1. 運営指導Ⅰ:利用者の生活実態の確認
・行動、心理症状のある利用者の確認
・その他の虐待や身体拘束が疑われる利用者の確認

2. 運営指導II:サービスの質に関する確認
・認知症ケアの理解
・虐待防止、身体拘束廃止への取り組み
(認識とサービスの実施状況、制度の理解)
・一連のケアマネジメントプロセスの理解
・地域との連携

【報酬請求指導】

3. 報酬基準に基づいた実施の確認
・加算及び減算に係る考え方
(加算等の請求に当たっての基本的な考え方を確認する)
・加算及び減算の実施状況
(加算等の請求の種類等の状況を確認する)
・加算及び減算の請求の内容
(各種加算等の請求を行っているものについて関係書類等により説明)
・効果
(加算を実施したことによる効果について説明)

【講評】

4. 実地指導の結果について

参照:介護保険施設等実地指導マニュアル(平成22年3月改訂版)

実地指導までに事前に準備しておく書類とは

実地指導までに事前に準備しておく書類とは?

ここまで「実地指導までの流れ」や「当日のスケジュール」について解説しました。

ここでは、実施指導で事前に準備しておく書類、提出する書類についてご紹介します。

実地指導では、主に「事前に指定された提出書類」「当日に提示する書類」を指定書類として準備しておかなければなりません。


【実地指導で準備する書類】

1.  事前の提出書類

  • 自主点検表
  • 運営規程
  • 重要事項説明書、パンフレット、契約書等
  • 従業者の勤務体制及び勤務形態一覧表(実地指導月の2ヶ月前分)
  • サービスの提供に関する調書
  • 通所介護・通所リハビリテーション規模別報酬の算定に関する調書
  • 業務マニュアル(緊急時、事故発生時、苦情対応等)

2.  提示書類
(1)勤務体制及び介護報酬の請求状況等を確認するための書類

  • 勤務表
  • 資格証
  • 苦情処理、事故発生時に関わる資料
  • 研修実施に関わる資料
  • 介護給付費請求書、介護給付費明細書
  • 請求書又は領収書の控え
  • 前年度各月の延べ利用人数に関わる資料

(2)サービスの提供を確認するための書類

  • 居宅(介護予防)サービス計画書、サービス提供表
  • サービス提供記録

ただし、必要書類は全てのサービスに共通するものではありません。自治体によっても必要書類は異なりますので必ず各自治体に確認してください。

▼書類以外にも実地指導前に介護事業所が取り組むべき備えがいくつかあります。実地指導がいつ来ても慌てない体制を作るために必要な備えについて詳しく知りたい方は下記の記事をチェックしておきましょう!

【関連記事】
実地指導・監査の不安解消!介護事業所ができる9つの備え!
実地指導がきても慌てないようにするためには体制づくりをする必要があります。事業所ができる実施指導の備えについてご紹介します。

まとめ

実地指導・監査・違い まとめ

ここまで、介護事業所で行われる「実施指導の目的」と「実地指導までの流れ」「事前に準備する書類」についてまとめてご紹介しました。

実施指導では、すべての書類を確認されることはありませんが、そのどれをチェックされても良いように事前の準備をしていくことが大切です。実施指導、監査があるから書類を確認し、整理するのではなく、日頃からこれらの書類の形式や内容をチェックしたり、各市区町村に直接確認するのも良いでしょう。

また、実地指導とは少し趣旨が異なりますが、近年事業者が自ら受けることを推奨されている「第三者評価」なども検討していくことも良いかもしれません。

【関連記事】
デイサービスの第三者評価とは|実地指導や監査との違い、内容や目的をご紹介
平成30年から重要事項の内容に、第三者評価の実施状況が追加になっています。

介護保険法は3年に1度の改定があります。制度は年々細分化され、複雑化してきています。行政や自治体の動きにも注目しながら介護事業所の管理・運営を正しく行なっていきましょう!

ICTの利活用でサービスの質と業務効率を同時に高める

2024年の医療介護同時改定では、団塊世代の高齢化を見据え、自立支援を中心とした科学的介護の実現、そしてアウトカムベースの報酬改定に向けて変化しようとしています。

このような時流だからこそ、より一層利用者さまの自立支援に向けた取り組みが重要になります。しかし、個別機能訓練加算をはじめとした自立支援系の加算やLIFE関連加算の算定は、売上アップも見込めるとはいえ、リハビリ専門職の不在や現場負担の問題で取り組みが難しいと考える事業所も多いのではないでしょうか?

その解決策の1つが「介護現場におけるICTの利用」です。業務効率化の意味合いが強い昨今ですが、厚生労働省の定義では「業務効率化」「サービスの質向上」「利用者の満足度向上」の達成が目的であるとされています。

業務効率化だけでなく、利用者一人ひとりの生活機能の課題を解決する『デイサービス向け「介護リハビリ支援ソフト」』を検討してみませんか?

この記事の著者

作業療法士  藤本 卓

作業療法士として大手救急病院に入職。救急医療や訪問リハビリ、回復期リハビリテーション病院の管理職として従事後、株式会社Rehab for JAPANに参画。作業療法士、呼吸療法認定士、住環境福祉コーディネーター1級、メンタルヘルスマネジメント検定Ⅱ種、生活習慣病アドバイザーの資格を有し、専門的な知識と現場での知見を元に、事業所の支援を行う。機能特化型デイサービスでは、2ヶ月で「稼働率72%から95%に」アップさせるなどの実績をもつ。

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