TUGテストとは|どんな評価?

TUGテスト(timed up&go test)とは、歩行能力や動的バランス、敏捷性(びんしょうせい)などを総合的に判断するテストとしてPodsiadlo & Richardson(1991)らが考案しました。
TUGテストは、様々な研究者によって研究成果が報告されていますが、一般的には転倒リスクの高い方を判断するのに有用なテストとされています。特に、高齢者の運動機能に関しての信頼性は高く、下肢の筋力、バランス、歩行能力、易転倒性といった日常生活機能との関連性が高いことが示唆されています。そのため、医療現場だけでなく、介護現場での評価としても実施されています。
現在、通所リハビリのリハビリテーション計画書では、移動能力の評価に「TUGテスト」または「6分間歩行」を測定する必要があります。このことからもTUGテストは、医療・介護現場での患者様・高齢者の移動能力の評価に重要といえるのではないでしょうか。
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TUGテストのカットオフ値|何が分かるの?

運動器リハビリテーション学会によると、TUGテストの評価は「椅子に深く座り、背筋を伸ばした状態(肘かけがある椅子では肘かけに手をおいた状態、肘かけがない椅子では手を膝の上においた状態)からスタートし、無理のない速さで歩き、3m先の目印で折り返し、終了時間はスタート前の姿勢に戻った時点とする」とされています。
この所要時間を評価したものがTUGテストですが、この評価から何を知ることができるのでしょうか?
TUGテストで分かること
TUGテストの評価は、様々な結果が報告されていますが 主には「高齢者の転倒リスクの測定値」と「運動器不安定症の診断基準」として活用されています。つまりTUGテストのカットオフ値を知ることで、転倒・骨折の危険性を早期に発見し、要介護状態となることを防止することができるのです。
TUGテストのカットオフ値
一般的に高齢者の転倒リスクの予測値として参考にされているTUGテストのカットオフ値はこちらです。
▶︎13.5秒以上:転倒リスクが予測される ▶︎30秒以上:起居動作や日常生活動作に介助を要す |
さらに、日本整形外科学会は運動器不安定症を判断する基準として、TUGテストのカットオフ値を「11秒以上」としています。詳細は以下の通りです。
--公益社団法人 日本整形外科学会-- 「運動器不安定症の定義と診断基準」 ● 診断基準 [機能評価基準]
(1) 日常生活自立度判定基準ランクJまたはAに相当 1. 開眼片脚起立時:15秒未満
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▼運動器不安定症を判断する基準である「片脚起立」の評価方法について詳しく知りたい方はこちらの記事がオススメです。
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TUGテストの測定方法|どうやって測定すればいいの?

それでは、TUGテストの測定方法についてご紹介します。
【測定方法】
(1) 開始肢位は背もたれに軽くもたれかけ、肘かけがある椅子では肘かけに手を置いた状態、肘かけが無い椅子では手を膝上においた状態とする。 (2) 両足が床につくように配慮する。 (3) 椅子から立ち上がり、3m先の目印を回って、再び椅子に座るまでの時間を測定する。 (4) 身体の一部が動き出すときからお尻が接地するまでの時間を計測します。 (5) 一連の動作を「通常の歩行速度(安全で快適な速度)」と「最大の歩行速度」の1回ずつ計2回を測定する。 (6) 2回の測定のうち。小さい値(速い時間)を採用し、秒数の小数点以下1桁までをご記入する。(2桁目は四捨五入) (7) コーンの回り方は、右回り・左回りどちらでも構わない。 (8) 日常生活において歩行補助具(杖)を使用している場合は、そのままご使用する。 |
※原法での歩行条件は「楽な速さ」とされていますが、E-SASでは「できるだけ早く」とした歩行条件下での測定値を用います。これは、最大努力を課すことで、測定時の心理状態や教示の解釈の違いによる結果の変動を排除するためです。
[参考文献]
島田裕之, 古名丈人,他: 高齢者を対象とした地域保健活動における Timed Up & Go Test の 有用性. 理学療法学 2006; 33: 105-111.
▼TUGテストの測定方法についてはこちらの動画がオススメです。
参考動画 |
TUGテストで準備するもの|評価前に何を準備すればいいの?

TUGテストの評価は、高齢者の転倒をリスクを把握することができる簡易な検査です。TUGテストを測定する場合は、直線で3m弱の距離と以下の物品を準備することですぐに検査を始めることができます。
【TUGテストで準備するもの】
(1) ストップウォッチ (2) 椅子 (3) ミニコーン (4) メジャー |
TUGテストの注意点|評価で気をつけることは?

TUGテストを行う場合の注意点についてご紹介します。評価を行う場合は、以下に注意して測定するようにしましょう。
【TUGテストの注意点】
(1) 最大の歩行速度を測定する場合は、走らないように注意する。 (2) 3m先のコーンを回る時に転倒に注意する。 (3) 歩行にふらつきがある場合は、転倒に配慮するため測定者が横に寄り添う。 (4) 椅子に座る時に勢いよく座ったり、転落・転倒しないように注意を払う。 (5) 数日後に再度TUG評価を行う場合に、測定条件が異ならないように注意する。 |
自立度の低い高齢者・片麻痺などの障害がある場合のTUGテスト
自立度の低い高齢者や、右片麻痺・左片麻痺などの運動麻痺などの障害がある場合でも、TUGテストは実施可能です。TUGテストを行わなくても、カットオフ値を上回ることが明確で転倒しやすい状態にあるとしても、現在の移動能力等の客観的な把握という目的で記録しておくことで、その後の変化やリハビリテーション・機能訓練の効果測定などに用いることができます。転倒に配慮するため測定者が横に寄り添いましょう。また、杖や装具の使用などがあれば、次回再度TUG評価測定を行うときにも、同様の条件で行えるように記録しておきましょう。
その他の評価方法|他に転倒リスクの評価はあるの?

TUGテスト以外に、高齢者の転倒リスクを判断する方法は知っていますか?以下に転倒リスクに関与する4つのバランス評価ご紹介します。
【転倒リスクの評価】
(1)Functional Reachテスト 測定方法は、足を肩幅に揃えて腕を肩関節90度挙げます。足を前に出すことなく、中指を目安に最大限にリーチした距離を測定します。3回テストを行い、最後の2回の平均値を求めます。 【カットオフ値】 ⑴虚弱高齢者の場合は、18.5cm未満は転倒リスクが高い (参考論文:Thomas et al., Arch Phys Med Rehabil. 2005) ⑵脳卒中片麻痺患者の場合は、15cm未満で転倒リスクが高い (参考論文:Acar & Karats, Gait Posture 2010) ⑶パーキンソン病患者の場合は、31.75cm未満で転倒リスクが高い (参考論文:Dibble & Lange, J Neurol Phys There 2006)などと報告されています。 |
(2)継ぎ足歩行テスト 測定方法は、Wrisleyら(2004)の方法では腕を胸の前に組んだ状態で、3.6m継ぎ足歩行をし最大10歩までの歩数を計測して4段階で評価しています。 【カットオフ値】 3(正常):ふらつきなしに10歩可能 2(軽度バランス障害):7~9歩可能 1(中等度バランス障害):4~7歩可能 0(重度バランス障害):3歩以下 |
(3)ボルグバランススケール 複合的な要素が確認でき、より信頼性が高いバランス評価に「バーグバランススケール(Berg balance scale)」があります。 【カットオフ値】 最大スコアは56点 0-20点:バランス障害あり 21-40点:許容範囲のバランス能力 41-56点:良好なバランス能力 |
▼転倒リスクを判断するバランス評価について詳しく知りたい方はこちらの記事がオススメです。
【関連記事】 転倒の危険性があるご高齢者を発見することができるバランス評価は、安全で効率的な転倒予防体操やリハビリを行う上で重要です。転倒予防に取り組む前の最初のステップとして、バランス評価の種類や測定方法を理解し、高齢者の転倒予防を推進していきましょう。 |
まとめ

私もリハビリの専門家の端くれとしてTUGテストを実施してきましたが、慣れるまでは準備もあり大変に思えます。しかしながら、この検査は、高齢者の下肢筋力やバランス、歩行能力、易転倒性といった日常生活機能を把握する指標となります。
最近では、介護分野でもある通所リハビリを中心にTUGテストが行われるようになってきています。これから介護現場でも利用者様の評価がしっかりと行われ、転倒リスクなどを事前に予測できる環境がもっともっと増えればと思います。
今回の記事が、これから初めて高齢者に評価を行う方、カットオフ値を忘れてしまった方々の参考になれば幸いです。
【最後に筆者より】
リハプランでは、今回紹介したTUGテストの評価方法以外にも介護現場で取り組める身体機能評価の方法や計画書の作成方法についてご紹介しています。ぜひその他の評価もご覧ください。
デイサービス運営において必要な「評価・測定」について、一挙にまとめていますので、必要に応じて活用していただければと思います。
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